「可笑しな権力と放縦な無力」菊とギロチン マユキさんの映画レビュー(感想・評価)
可笑しな権力と放縦な無力
クリックして本文を読む
体制を破壊することを夢見る無政府主義者組織「ギロチン社」のメンバーも、女相撲興行で生きる人々も、社会の周縁に位置する。だから、彼ら彼女らには、何か惹きつけ合う力が働くのだ。
一方、彼らを取り締まる当局の側は、滑稽なほどの硬直さと紋切型の姿勢を見せる。関東大震災後の朝鮮人虐殺から命からがら逃げ延びた体験を持つ十勝川が、自警団に殺されそうになった中濱を助けるため、屈辱を忍んで「天皇陛下万歳!」を叫ぶシーンがある。すると、在郷軍人や自警団たちも「天皇陛下万歳!」をやり始めるのだ。ニキータ・ミハルコフ監督『太陽に灼かれて』で、コトフ大佐を暴行する秘密警察が、巨大なスターリンの肖像を吊るした気球を見て「スターリン同志!」と敬礼するシーンがある。イデオロギーに励起される「自動機械」なのだ。
また、女相撲の旅興行の地で、当局の人間がやって来て言う文句は「風紀紊乱があれば、即刻中止を命ずる」の馬鹿のひとつ覚え。デタラメな無政府主義者と権力の自動機械と化した当局。そして「見世物」になりながらも女相撲に生きる力士たち。
滑稽な権力につぶされるギロチン社と女相撲一座「玉岩興行」。その瓦解が輝いて見えるのは当然だ。
コメントする