「光も届かぬ」光(大森立嗣監督) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
光も届かぬ
三浦しをん原作×大森立嗣監督と言えば、“まほろ駅前”シリーズ。しかし本作には、あの緩い雰囲気は微塵も無い。
他に映画化された三浦しをん作品と言えば、『舟を編む』『WOOD JOB!』『風が強く吹いている』など人間ドラマの好編。しかし本作には、感動も後味の良さも微塵も無い。
“光”なんて言う何かしらの希望を感じさせるタイトルとは全くの正反対に、恐ろしく、重く、暗く…。
東京の離島で暮らす信之、輔、美花の3人。
ある夜、ある罪を共有。それは、突然島を襲った大災害で洗い流された筈だった。
25年後、彼らの忌まわしい過去が再び交錯する…。
この手のズシンと響きそうなKO級の人間ドラマは好物。結構期待していた。
確かに見応えはあったし、色々考え、感じさせるものもあったが…
好きにはなれなかった。
まず先に良かった点を。
キャストの熱演。
とりわけ瑛太が、圧巻の存在感と異彩と怪演を見せる。彼には間もなく公開の『友罪』にも非常に期待している。
井浦新も抑えた中に狂気を孕んださすがの演技力。
女優陣では、橋本マナミが案外悪くなかった。大胆な濡れ場も演じ、役柄や演技的にも女優が本業の長谷川京子より上々だったと思う。
平田満も出番はそんなに多くないが、強烈な印象を残す。汚ならしいケツと共に…。
賛否両論のジェフ・ミルズによるテクノ調音楽。
自分は嫌いじゃない。
OPや岡本太郎の作品や島の大樹などのシーンに流れる爆音は本当に独特でユニークなインパクトあるし、登場人物たちの狂気を充分に表している。
好材料は揃ってるのに、それでもどうしても本作が好きになれなかったのは、やはり登場人物たちに全く共感も理解も出来なかったからだろう。
登場人物たちが揃いも揃って、クズで不快極まりない。
…いや、それなら先日見た『彼女がその名を知らない鳥たち』だってそう。
しかし『彼女が~』の登場人物たちは確かにクズゲスだが、愚かで哀れで、愛を求め、愛に救われる、胸抉られるものがあった。
本作にはそれが無い。
一見穏やかそうだが、罪を重ね、誰より偽善者である信之。
彼の妻・南海子は夫に不満を感じ、不倫に溺れている。その不倫相手と言うのが…
昔、島で共に暮らした輔。突然現れ、奥さんと不倫してる事を告げ、共有した罪を脅迫として使う。
輔自身も、DV父に苦しめられ…。
美花は名を変え女優として成功。一人、過去も罪も全て消し去ったつもりでいるが…。
罪、殺人、脅迫、欲…。
登場人物たち皆、何をし、何を求めているのか、全く分からない。
そのあさましい姿は、どんなエログロを見るより不快。視覚的にではなく、精神的に。
彼らもあのままずっと島で暮らしていたら幸せだったのだろうか。
いや、それは無い。
OPの島での生活のどんよりした雰囲気が何よりそれを物語る。
決して、いい思い出ではない。
そこに重ねた罪。さらに、今また重ねた罪。
彼らは永遠に、罪に、あの島に、取り残されたまま。
いや、もはや“罪”と言うより、“呪い”だ。
呪いに囚われ、縛られたまま…。
「暴力に暴力で返した者は人間の世界には居られないのかもしれない」
光も届かぬ、罪、呪い、業…。
彼らにはもう、救いは無いのか…?
ならば、“光”とは…?
それでも彼らは、“救い”という“光”を求めていたのかもしれない。
昔、島で見た、夜の海の白い月の光のように…。
…と、美辞麗句風に締め括ってはみたものの、結局は何を言いたかったのか、何を伝えたかったのか、う~ん…。
大森監督作品は概ね好きだが、唯一、途中ギブアップした作品があった。
『ゲルマニウムの夜』。
本作はその系統を感じた。
あの異質で、異様な不快感を…。