サラエヴォの銃声のレビュー・感想・評価
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かの国の歴史に興味を持つきっかけに
ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ。100年前に第一次世界大戦の引き金となった重大な事件が起こったことは世界史で習っていても、周辺諸国による占領・統治が繰り返され、民族的にも複雑なこの国についてよく知らないというのが私を含め大半ではないか。もちろん、歴史的民族的背景をある程度把握しておくほうがより理解できそうな台詞も多いが、知らなければ楽しめないというほどでもない。深刻なテーマを扱いながら、タノビッチ監督らしいユーモアもあり、ホテルでスリリングに進行する群像劇の面白さに引き込まれる。
監督はボスニア紛争を描いた「ノー・マンズ・ランド」をはじめ、常に社会的弱者や権力に翻弄される個人の側に立ってきた。民族対立、貧困、労働者の搾取といった問題はけっして遠い世界の話ではない。この映画を入口に、当地について調べたり、監督の過去作をさらに観賞してみるのもありだと思う。
奇才ダノヴィッチはこの地で何を訴えかけようとしたのか?
1914年に発生したサラエボ事件は、第一次大戦が勃発した原因としても有名だ。しかし事の背景はあまりに複雑で、本作を紐解く前にある程度の概略を頭に入れて臨んだ方が良いかも。というのも、『ノー・マンズ・ランド』のダノヴィッチ監督が放つこの異色作は、まさにそのサラエボ事件から100周年目のメモリアル・デイに様々な研究家や論客がこの地に集って特別報道番組のインタビューを受ける中、その舞台となる高級ホテルでは賃金の不払いに不服を唱える従業員がストライキを企て・・・といった、一筋縄ではいかない内容が展開するからだ。この100年間、事あるごとに火薬がくすぶり続けてきたこの地の過去と現在が、ホテル内のあらゆる場所の対立として仄かに集約され、煙を立ち上らせていく。本作が伝えるのは、歴史がまだ終わってなどいないということなのか。それとも人類はこの諍いのメビウスの輪から逃れることなどできないのだろうか。見終わった後にズシリと重みが増していく作品だ。
歴史問題と労使問題の密室劇
舞台はサラエヴォのとあるホテル。この館内と屋上?だけで物語は完結しており、なおかつ劇中の経過時間も視聴時間も概ね同じ、つまりせいぜい数時間のホテル内の出来事をえがくというユニークな構成。
館内を移動する人物をカメラも追いかけるため、実際にホテルにいるような臨場感がある。
同じホテル内とはいえ、館内と屋上では別の話が並行して進み、ラストで両者は皮肉な交差をみせてエンドとなる。
サラエヴォは第1次世界大戦の発火点でありユーゴ紛争の中心地である訳だが、正直なところ、歴史パートは一般の日本人には到底消化できないレベル。朝廷、幕府、薩長土肥プラス地名・人名がわからない外国人が、幕末維新モノを観るようなものなので、充分な理解は諦めたほうがいい。
細部がわからないからなのか、この作品のメッセージがどんなものかもよくわからなかったのだが、わからないなりになにか思うことはあるかもしれない。自分の場合はこうだ。世界中の民族間の因縁など他者から見れば掃いて捨てるほどあり、とるに足りないが、自分、自国となると、やはりそうはいかないということだ。全世界がそうなのだ。理解できないことを理解する知性が必要なのだろう。とはいえ、崇高な民族的アイデンティティにまつわる不満も考え様で賃金未払いの不満と大差ない、そう主張しているようにも思われた。
そして誰もいなくなった
ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエヴォ。
WW1のきっかけになったサラエボ事件に始まり、最悪の民族浄化を生んだボスニア・ヘルツェゴビナ紛争と負の歴史に苛まれた100年。
ドキュメンタリーっぽくそのあたりを喋らせる報道特番パートと市民の生活が厳しそうな今の現状をみせるホテルパートが上手く融合。
あまり知ることのない欧州のことを知ることが出来る社会派群像劇。
近くの国とは仲良くできない
サラエボのホテルで記念式典が開かれ、EUの幹部のパーティが開かれる。
ホテルは資金繰りが苦しく、給料未払いでストライキが目前だ。
セルビア、ボスニア、クロアチアの歴史的な確執が背景として描かれ、ある意味、絶望的な気分にさせてくれる。
銃声も象徴的だ。
サラエボ事件のインタビューシーンとホテルでのストライキとの絡みがイ...
サラエボ事件のインタビューシーンとホテルでのストライキとの絡みがイマイチ噛み合ってなかった。
正直、訴えるものもなかったし胸に来るものも全くなかった。
期待外れの作品でした。
観る人を選ぶ映画だが
第一次世界大戦の発端となったサラエボ事件、そして1990年代の旧ユーゴスラビア解体の過程と現在に至るまでの知識がないと、深く理解するのは難しい。観る人を選ぶ映画であることは確か。
しかし、ここに登場する人々は、決して遠い国の知らない人々ではなく、歴史を生きる私たち一人ひとりである。かつて親しくしていた隣人を敵とみなさざるを得なくなり、停戦を経て平穏を取り戻したようには見えても心の深いところでは納得することがない。登場人物一人ひとりが、アンビバレントな感情を抱えつつ生きていくしかない。そんな状況を美しくまとめることなく描ききったダノヴィッチに拍手を贈りたい。
オススメです。
今のボスニアを知る事が出来る素晴らしい映画でした。登場人物それぞれにボスニアの今が投影されていて、抱えている問題の複雑さも細かく描かれていたと思います。又、サラエボ事件の捉え方についても異なる側面がある事を知ることが出来ました。
ヒステリーな二面性
サラエヴォのホテルを舞台に様々な人達とそれぞれに相対する人達との両面からの主義主張をみせていく群像劇。
あらすじには銃声をきっかけに交錯していくとあるけれど、それをみる作品ではない。
決して誰かが悪い訳ではないし間違えている訳でもなく、それぞれの立場や抱えている問題があるということ。
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