「アクションもすごいし」武曲 MUKOKU denebさんの映画レビュー(感想・評価)
アクションもすごいし
綾野剛さんのアルコール依存の演技は凄絶。『そこのみにて光輝く』もそうだが、自分が人を死に(近い状態に)至らしめたことが、どれほど精神をさいなむのか、恐ろしいほどに伝わる。
父と子の相克はすさまじかった。県警の凄腕剣士が我が子に「殺人刀(せつにんとう)」を仕込む姿は異様で、幼い研吾役の子がけなげで痛々しかった。無慈悲な父もまた、そのように仕込まれ、恨みとともに剣道を続けて来たのか。
光邑和尚曰く、研吾もその父も同じく「弱い」「逃げている」。稽古を重ねても、おのれの弱さがなくなるわけではないということか。自分の闇を見つめる狂気を演じたら綾野剛さんの右に出る者はいないと思う。
研吾が剣道の心得のような文章をつぶやく場面があった。精神の鍛錬とか国家の平和とか、剣道を学ぶ効用の副次的な産物ではあるかもしれないが、剣道の目的はたぶん違う。これはスポーツではないようだ。
「剣道は競技だ」と部活の生徒は言い、「殺し合いでしょ?」と融は言った。剣道はもとをたどれば人を殺す術であり、今の世にあっても、生きている実感を生と死のせめぎあいに求める若者がいるということ。
村上虹郎さんも見事だった。実は剣道初段とのこと、いっそ初心者のふりをせず、腕前を見せてもらったほうが、「殺人刀」の使い手である研吾の父と二重写しになる必然性が増したのではないか。他の方も書いておられるように、矢田部研吾が素人の高校生と本気で勝負をするという設定に、どうも入り込めない。
それ以外は、柄本明さんや小林薫さんの達人ぶりに見惚れたし、鎌倉の風景が人間くさく魅力的に見え、ホームレスのおじさんや女性たちもいい味を出していると思った。
アル中の研吾が剣道部員をなぎ倒して竹刀を折る場面とか、立ち直る過程で仏前で素振りをするのはどうかと思ったが、二人が最後の勝負で防具をつける所作は美しく、剣道と禅について興味を持った。