「いつか必ず実る人生フルーツ」人生フルーツ fuhgetsuさんの映画レビュー(感想・評価)
いつか必ず実る人生フルーツ
タイトルからはピンとこなかったけど、いい映画というかいいドキュメンタリー作品だった。
テレビ放送された番組の映画化だけど、この老夫婦が持つ独特な時間の流れをただそのまま見つめていく。
意図的な文字スーパーが必要最小限に挿入され、ナレーションもおなじみの樹木希林さんだから安心して観れる。
舞台となるのは、この老夫婦が住む名古屋近郊の高蔵寺ニュータウン。
前知識は、建築家だったことと果樹に囲まれて生活しているということだけ。
よく知ってるつもりのあまり好きではなかった土地だけど、映画を観て変わった。
その何でもない日々の暮らしがこんなにも豊かで、二人きりの老後をここまで楽しめる秘訣はどこにあるんだろう。
このニュータウンがどうして出来たのかの理由が、伊勢湾台風だったとは。
ときは高度経済成長の真っ只中。
被害の無かったこの高台の地に、住宅公団の都市計画が持ち上がる。
その先頭に立ってプランを設計したのが、この津端修一さんだったのだ。
そのプランでは、地の利をいかして尾根沿いに家を建て、谷はそのまま風の通り道となるよう、21世紀の現代こそ必要とされる自然と共生するライフスタイルを、すでに60年代に打ち立てていた。
しかし、計画が進むにつれ業者やいろんな利権が入り込んだのだろうが、結局今わたしたちが知ってる無機質な団地となってしまった。
だからこそ、修一さんは責任を感じたんだと思う。
無残なはげ山となり造成された新地で、自ら土地を買い木を植え土をつくりながら小さな実験をはじめる。
全体からでは出来なくても、1軒ずつでもそんな暮らしが増えていけば、雑木林に囲まれた住宅街が出来ると、自らのプランを実現しようとする。
そのスピードはなんとゆるやかなことか。
ゆっくりでもこつこつとやっていれば、やりたいことは自然と実現していく。
お金を貯める生活でなく、時間を貯めるというとてもシンプルで豊かな生活。
だから、何でもない日々の生活のひとつひとつが生き生きとして、それらは果実のようにいつか必ず実るということをわたしたちに教えてくれる。
英子さんの手料理ひとつひとつも。
お孫さんにつくったドールハウスや、娘さんが大切に思った鳥の水場も。
そんな夢のような時間がいつまでもつづき、まさか最期のときが来るとは思えない二人だったけど。
だけれど、それも自然に美しかったのだ。