劇場公開日 2017年5月19日

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「深い思索に満ちた良作」メッセージ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0深い思索に満ちた良作

2017年5月22日
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鑑賞方法:映画館

 相対性理論によれば時間と空間は変数である。定数は唯一、光の速度Cだけだ。理論はほとんど数式によって表されるので、よほど数学に詳しくなければ理解できない。何冊か入門書を読んだが、なんとなくの理解はできた気にはなるものの、真実に思い至るというところまでは辿り着けない。それは何も理解できていないのとほぼ同じだ。宇宙の原理を数式で記述しようとする理論は、三次元の日常生活を送る我々にはそもそも無縁である。

 この映画は、そんな宇宙音痴の我々でもどうにか理解できるように設定されている。ヒントは、相対性理論の説明でよく使われる、観測者という概念だ。観測者は自分のいる系の中で観測し、記述する。例えば観測者が無限に加速しながら上昇を続けるエレベーターの中にいるとすると、観測者からはエレベーターが見えないので、エレベーターの加速度が地球の重力加速度と同じなら、観測者は自分は地上にいると記述するだろう。この思考実験は、大抵の相対性理論入門書に書かれてある。そして次の思考実験に続く。エレベーターの一方の壁の穴から入ってきた光は、もう一方の壁の穴に到達するが、その間に僅かながらエレベーターは上昇している。観測者から見たら、光が重力によって曲げられたように見える。そして相対性理論は、大胆にも次のように結論づける。即ち、光は重力によって曲がる!

 この映画は、観測者の記述の仕方によっては、変数である時間と空間について異なった説明ができるという、相対論的な仮説に基づいてストーリーが構成されている。極めて三次元的な地上のシーンにはじまり、物語の結末へ向けて驚くべき飛躍を披露する。その結末を見た誰もが思わず膝を叩き、そして制作者のアイデアにニヤリとするだろう。
 作品の価値観は宇宙観だけにとどまらず、エイリアンとの遭遇における人類の態度や人類の自己検証にまで及ぶ。アメリカ映画らしくない、深い思索と哲学に満ちた良作である。

耶馬英彦