「記憶の不確かさと人間の脆弱さ」ガール・オン・ザ・トレイン 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
記憶の不確かさと人間の脆弱さ
世間的にはあまり評価が高くないようなのだけれど、個人的にはかなり楽しませてもらったサスペンス・ミステリー。まるで小説を一ページずつじっくり読み進めていくような感覚で物語の内容と事件の真相に少しずつ近づいていく感じとかも良かったし、人間の脆弱さと空恐ろしさみたいなものも描けていたし、最後にはドキッとさせられたし、個人的に好きだった。
ミステリーでは主人公が聡明な謎解きを見せたりするものだが、この映画はヒロインがアルコール依存症で、その頼りない「記憶」を操って物語を紡いでいく。ヒロインさえ何が事実で何が真実かが分からないまま物語が進んでいく緊張感も良かった。私は全くパーフェクトではないこの映画のヒロイン像が寧ろ好きで、不完全な人間が必死でもがく映画も好きだったりする。人間らしくて。
時間軸が大幅に往復する手法は、「記憶」を操る上では必然的だったとはいえ、ちょっとやり過ぎたかも?という気はする。事によっては、物語をただ混沌とさせて分かりにくくしてしまったところもあるし、時間をずらしたことで細部を誤魔化した感も拭えない。ヒロインがアルコール依存症で、冷静に見れば常軌を逸したような行動を見せることがある分、物語はもう少し理路整然としていても良かったような。
アリソン・ジャニーやリサ・クードロウなどの助演も手堅く旨みのある女優さんが支えていて、女優を堪能する映画としても面白かった。やっぱり特筆すべきはブラントの演技。いつもは凛々しく見える瞳からは、生気が完全に抜けて虚ろになり、感情の起伏が激しく、狂気的になったり猟奇的になったり脆く崩れたり挙動不審になったり・・・。感情を大きく使った演技に見ごたえがあり、実力派女優の力量を見せつけられた気分。また個人的には、「ラブソングができるまで」でシャキーラのニセモノみたいな役柄をコミカルに演じていたヘイリー・ベネットがドラマティックな演技をセクシーに演じていて、そちらの演技幅の広さにも感嘆した。今後もっといろいろな作品でお姿を拝見できそうな予感。