「愛を盲信しすぎたメロドラマ」マリアンヌ 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
愛を盲信しすぎたメロドラマ
VFXを多用した映画のイメージが強いロバート・ゼメキスが手がけた壮大な愛のスペクタクル。ゼメキスの演出はブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの演技に接近したシンプルな物でありながら、要所要所に得意の技術を用いて印象的なシーンを描き出す。緩急が効いていてイイ。あまりゼメキスらしい作風ではないはずけれど、ゼメキスが演出したことに意味がある映画になった感じ。とは言え、アクションや銃撃シーンになると、ゼメキスの演出タッチが大味なエンタメ風に傾いてちょっと派手で大袈裟すぎな気もした。
緊張感があってサスペンスフルで、ぐいぐいと吸い込まれるように世界観に浸って中盤、妻マリアンヌがドイツのスパイかもしれない、と判明してからの展開にはやや不満が残る。夫の葛藤がまるで見えない。諜報員らしく冷静沈着に情報収集に手を回す姿(呆れるほど嘘が下手だが)は映されるが、
妻を今まで通り愛していいのか、妻を信じていいのか、疑惑は拭えないがそれでも妻を愛さずにいられない・・・というような葛藤が夫の立ち回りからまったく匂わない。彼女がマリアンヌであるか否かは疑っているけれど、彼女の愛はまるで疑いもしてないかのよう。盲信的なまでに妻を愛していると言えば聞こえはいいが、ここまで盲信的な二人の愛を描いてしまったら、エンディングはもう一捻りくらいしないと伏線として成立しない。最後の最後、妻が夫を出し抜いて、愛を盲信し過ぎた夫の愚かさを皮肉るくらいのエンディングが来なければ、「ふたりの愛は本物だった」なんて陳腐な結論では納得いきません。
そもそも、夫がマリアンヌの正体を暴いた後の夫のセリフ「愛していたか?」に首を傾げた。「え?そこ?!」という感じ。この映画の論点って、本当にひたすら愛してたか否かだけだったんだな・・・と空虚な気分に。あの一言で、映画がただのメロドラマに転落したような印象。夫としても諜報員としても、もっと聞くべきことや言うべきことがいくらでもあった気がするし、一番のクライマックスで最高に気の利かないセリフに思えた。まるで戦争もナチスもレジスタンスもどうでもいいみたい。
ただマリアンヌを演じたマリオン・コティヤールは素晴らしかった。まさしく映画のミューズ。役柄だけでなく演技面においても、完全に主導権を握って美しく輝いていた。