「たった一度、赦すだけでいい」光をくれた人 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
たった一度、赦すだけでいい
Blu-rayで観賞。
なんとも切ない物語。
早川書房の原作小説の邦題は「海を照らす光」で、ほぼ原題の直訳。映画の邦題「光をくれた人」は上手いアレンジだと思う。
はたして、登場人物たちに「光」を与えたのは誰だったろうか。
傷心の元軍人トム(マイケル・ファスベンダー)に光を与えたのは、町の名士の娘イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)だ。
トムの妻となったイザベルは二度の流産で心身ともに痛手を負う。彼女に光を与えたのは島に流れ着いた赤ん坊だろう。
赤ん坊はイザベルの両親や周囲の人たちにも光を与えたかもしれない。
夫と娘をなくして絶望の淵にあるハナ(レイチェル・ワイズ)に、帰って来た娘は光をくれたのだろうか。
トムは、苦しい選択を迫られる。
妻が赤ん坊を自分達の子供にすると言い出したとき、赤ん坊の実の母親が悲嘆にくれていることを知ったとき、愛する存在への思いと、社会人としての正義感と義務感、そしてエゴイズムが複雑に絡み合う苦悩が彼を襲う。
ファスベンダーは、映画の冒頭から心に傷を持つ男の哀愁を漂わせ、やがて苦悩に至る様を好演している。
情緒的なカットを挿入した静かな演出も上手い。
主演の二人だけでなくキャスト全般がよい。特にハナの役にレイチェル・ワイズを配したことが効果を上げていると思う。
イザベルは感情を割りと露にし、体調も崩したりする。が、ハナは怒りも悲しみも内に秘めた難しい役どころだ。
ワイズは、眼差しや唇を歪める表情で秘めた感情を想像させる。
実の娘は生きて帰って来たが、その子の心は灯台守夫婦から離れない。やっと再開して、更に辛い現実が訪れる。
家出した娘の命が助かるなら、娘の望む通りにする、と神に誓う。
イザベルに、夫の罪を証言するなら娘を返すと告げる場面、短い場面だがワイズの決意の表情が胸に刺さる。
「八月の蝉」を少し連想した。
幼い自分を愛情込めて育ててくれた母は誘拐犯だった。引き取られた実の母とは心が通じないまま大人へと成長する娘。
だが「光をくれた人」の展開は正反対だ。
あれからハナは、娘をどのようにして育て、その数奇な生い立ちを受け入れさせ感謝の気持ちすら抱かせたのか。知的で思慮深く寛容なハナと家族たちの長い年月の生活を一瞬で想像させる結末。
それらを支えたのは、亡きドイツ人の夫の尊い精神だ。
「たった一度、赦すだけでいい」
登場人物たち皆に光を与えたのは、このドイツ人の夫だった。
余談だが、映画を観終わって少し経って「ルーム」を思い出した。
ブリー・ラーソンが演じた母親は、息子に生い立ちを受け入れさせることができたのだろうか…