「重く見えて軽い作品」光をくれた人 kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
重く見えて軽い作品
この作品で何度も台詞に出てくる「赦し」とは、人間の態度ではおそらく最強だと思っています。
しかし、個人的な感情を越えないとその境地には至れない。最強なだけあり最難関でもあります。簡単に赦せるのであれば、とっくの昔に世界平和は訪れているでしょう。
本作品は赦しをテーマしとして描いており、その点は素晴らしいと思います。しかし、描ききれているとは到底思えなかった。物語はとても魅力的でしたが、語り口に関しては大いに不満でした。
特に気になる部分は、ハナの赦しに至るプロセスがあまりにも簡潔に描かれていること、そしてイザベラの苦悩の表現があまりにも軽すぎることです。
ドイツ人の夫はこの話の隠れ最重要人物ですが、その真価が発揮されるのは一場面のみ。ドイツ人の夫とハナの物語を掘っていかなかった結果、ハナの偉大なる転回がただの書割にしか見えなかった。勿体無いとも思ったし、誠実じゃないようにも思った。難しい着地点だからこそ、そこに至る物語を丁寧に紡いでいく必要があるのだと思います。
イザベラの苦悩も同じで、犯した罪への後悔は、最後の最後でちょろっと出ただけ。確かに、物語の中では長い時間が経過しているが、それを省略しているため伝わって来ない。特にイザベラは当初から未熟で身勝手な人物として描かれていたため、省略されてしまった時間こそがイザベラの成長であり、彼女の真の物語だったと思います。
ラストのルーシーの訪問は、幼少期に辛すぎる体験をした彼女を軽く扱いすぎていると感じた。ここに至るまでルーシーは何度も苦しみを超えて来たんだろうな、なんて思いを馳せたが、やっぱり、それが見たいんだよね。ルーシーの物語までやると三部作とかになるからしょうがないけど、登場人物たちへのリスペクトがどこか感じられないように思えてしまった。
クラシカルで美しい映像や壮大な音楽は雰囲気抜群。だからこそ、なんか雰囲気で騙してきてるな、と思えてならないです。
重厚に見えるが軽薄。赦しって言葉を連発してたけど、言葉が軽い。年を食っても美しくセクシーなレイチェル・ワイズを観れたのが、唯一よかったとこです。
*6/11 追記
先日、ライムスター宇多丸の映画批評を拝聴。そこで、本作の監督・シアンフランスが省略話法を得意としていることをはじめて知りました。
今回は監督の特色がかなり大きく裏目に出たのかな、と感じた次第です。