アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男 : 特集
歴史の常識が今改められる!
1960年のアイヒマン拘束。モサドを裏で導いたのは孤高の検事長だった──
諜報、頭脳戦、反逆罪──スパイ&歴史実録もの好きに贈る“極秘作戦”
ホロコーストの中心的人物、アドルフ・アイヒマン拘束の真の功労者は、ドイツ検事長フリッツ・バウアーだった──歴史的な極秘作戦の裏に隠された真実を描く「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」が2017年1月7日より全国公開。本作は、歴史的事件を描く実録ものであり、同時に、スリルに満ちたスパイ・サスペンスでもある!
なぜ、ナチス・ドイツ親衛隊中佐アドルフ・アイヒマンは、
ドイツではなくイスラエルで裁かれたのか──
半世紀を経て封印が解かれた、アウシュビッツ裁判につながる新事実
1961年、ナチス・ドイツが収容所で行ったユダヤ人大量虐殺=ホロコーストの実態を初めて衆目にさらした「アイヒマン裁判」。ホロコーストの中心的役割を担ったアドルフ・アイヒマンは、60年に潜伏先のアルゼンチンでモサド(イスラエルの諜報機関)によって身柄を拘束され、イスラエルの法廷でその責任を問われたが、なぜドイツ本国ではなく、イスラエルで裁かれたのか。
「ナチス最重要戦犯アイヒマンを捕獲せよ」──この、モサドによって行われたと思われていた歴史的作戦の裏には、実は知られざる真実があった。半世紀以上を経た今、「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」によって、その驚くべきエピソードが明らかになる。
モサドが実行したアイヒマン捕獲作戦の裏には、実は「陰のヒーロー」とも呼ぶべきひとりのドイツ人がいた。彼の名は、ドイツ検事局長フリッツ・バウアー。本作は、戦争の記憶を風化しようとする動きがあった戦後間もないドイツにおいて、祖国の未来のために正義と信念を貫き、ナチスの戦争犯罪の追求に人生を捧げたバウアーが、いかにして消息不明だったアイヒマンの所在を突き止め、追い詰めていったかが描かれるのだ。
後の重要裁判、ドイツ人自身がナチスの戦争犯罪を問うた「アウシュビッツ裁判」にもつながる歴史的新事実を、濃密かつサスペンスフルなタッチでエンターテインメントとして撮り上げた本作は、「ドイツのアカデミー賞」と称されるドイツ映画賞で、作品賞、監督賞、脚本賞を含む6部門受賞という快挙を成し遂げた。さらには、ロカルノ国際映画祭観客賞受賞など、ヨーロッパ各国でも高い評価を集めている。
人類史上に残る最悪の犯罪と言っても過言ではない、ホロコースト。悪魔的な所業を組織的に行ったナチス・ドイツというものが生まれてしまった当国、ドイツ映画界が描くからこそ、本作の物語はその真実味と重みを増す。国の未来を思って正義を貫こうとするバウアーを妨害するのは、当時、国家の要職に紛れ込んでいたナチスの残党たち。長らくタブー視されてきた事実とも真しに向き合い、ドイツの本当の裏側にまで迫っているのだ。
本作は、名作“ナチス”映画の前章であり、クラシックな“スパイ”映画
この2つのキーワードに反応したあなたに、真っ先にすすめたい
ナチスの戦争犯罪にまつわる歴史的な実録ドラマであり、かつ、潜伏中の重要人物の居場所を突き止めて捕獲するという、国際諜報戦を描くスパイ・サスペンスでもある本作。「ナチス映画」「スパイ映画」という2つの側面を持つ作品だけに、その両ジャンルにひかれるという映画ファンには、特に強くすすめたい1本だ。
アイヒマン裁判を描いた実録作品としては、裁判の傍聴記を記したユダヤ人哲学者の姿を描く「ハンナ・アーレント」が出色。同裁判を全世界に知らしめようと中継実現に奔走したテレビマンたちの姿は、「ホビット」シリーズのマーティン・フリーマン主演作「アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち」で描かれた。そしてこの裁判をきっかけとし、アイヒマン逮捕に尽力したバウアーによる63年から65年の「アウシュビッツ裁判」の模様は、「顔のないヒトラーたち」で描かれている。「アイヒマンを追え!」は、こうした名作ナチス映画の「前章」として重要なのだ。
そして「スパイ映画」としての側面。50年代後半、依然として混迷を極める戦後ドイツを舞台に、ひとりの男があの手この手を駆使し、国際的に重要人物を追い詰めていく物語は、スパイ小説の大家ジョン・ル・カレが描くクラシカルでハードボイルドなスパイ・サスペンスさながら。東西冷戦下を舞台に、イギリス秘密情報部(サーカス)に潜む二重スパイを描いた「裏切りのサーカス」(ゲイリー・オールドマン主演)や、東ドイツに潜入する英国スパイを描く「寒い国から帰ったスパイ」など、傑作スパイ映画にひかれた映画ファンは見逃せないはずだ。
アイヒマン捕獲作戦のフィクサー=フリッツ・バウアーとは何者なのか!?
ナチス逮捕の執念がすごすぎる──見よ、このおきて破りの数々を!
戦後ドイツの未来を思い、正義と信念を貫いたドイツ検事長フリッツ・バウアー。アイヒマン捕獲作戦の裏で世界を股に掛け、ナチス戦犯告発に心血を注いだ重要人物の姿が本作で描かれるが、驚かされるのは、目的を達成しようとするバウアーの執念。周りを敵視し、手段も選ばない彼の流儀・捜査方法が「おきて破り」の連続なのだ。
たとえ部下や同僚、上司であっても敵視までしていたのがバウアー。第2次世界大戦後すぐのドイツには、どさくさにまぎれて身分を隠し、のうのうと政府組織に入り込んだままのナチス残党が多かったのだ。
「周りは常に敵」という信念は徹底していた。重要な仕事は、検事局の執務室では行わないのだ。話し合いは基本、車中。もちろん運転手もバウアーが信頼できる者。過剰なまでの機密保持の意識に驚かされる。
視聴者や検事局スタッフからどんなに批判を受けようとも、テレビ討論番組への出演を辞めなかった意志がすごい。若者の重要性を熟知するバウアーは、彼らに民主主義の精神を説き、新たな視点を与えたのだ。
どのナチス残党が、現在どこの組織で働いているのかを把握していたバウアーは、重要証拠を得るために「過去の経歴を秘密にしておいて欲しければ、捜査に協力しろ」と詰め寄る。敵とも取引する主義に驚く。
身を犠牲にしても祖国の未来を思う強い志に注目。ドイツの情報部を信用できないバウアーは、なんと他国の諜報機関に情報を漏えいさせるのだ。国家反逆罪を犯しても目的をやり遂げる。それが彼の流儀だ。