「伝聞、伝承のちからを信じる物語」KUBO クボ 二本の弦の秘密 雨丘もびりさんの映画レビュー(感想・評価)
伝聞、伝承のちからを信じる物語
少年クボが、母から聞いた亡父の英雄譚を辿って冒険するお話。
新たな仲間と父の残したアイテムを手に入れ、襲いかかる父の仇"月の帝"と対峙する。そしてついに、両親が紡ぎきれなかった未完の物語を完結させる。
先代の物語を弦に託し、
新たな物語を音と折紙で紡ぐ。
語り部の供とする楽器が「三味線」というのがたまらない。
隻眼の少年クボが挑むのは、月の帝その人ではなく、人間の脆さ、儚さだ。
すぐに傷付き、老いさらばえて死ぬ。色香に惑い心がわりし、嘘に翻弄され、大切なことを忘れる。その虚しさを薙ぎ払うべく、少年は武器を手にする。
クボの武器は、鎧兜や刀そのものではない。物語だ。
弱い人間に勇気をみなぎらせ、慰めと癒しをもたらし、さらには、命を吹き込んで死者をも甦らせる力。
ただのいろ紙を鳥や虫、剣士や悪魔に変身させるエネルギーにも似た偉力。まさしくアニメーション。
だから人は仲間を求める。
思い出話を共有し、お互いを言葉で語り合える同胞を。
人は死ぬ運命にあり、物語は"おしまい"を迎える必然にある。だからこそ人の心を打ち、語り継がれ、永く生き続ける可能性を秘めている。
観客に「今日はお終いまで語っとくれよ」と言われて切なく微笑むクボが、この映画で最後に言うセリフ。
それは、映画を求める脆い観客への祝いであり、この映画を忘れられなくする呪いでもある。
この前すごい映画に出会ってさ、という口伝えによって、本作は永遠の命を得る。
短くも力強い物語。
嗚呼矢張り、
そう成ればこそ、
目叩きすら、してはならぬ。