劇場公開日 2017年8月26日

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「期待し過ぎだったか」関ヶ原 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0期待し過ぎだったか

2017年8月26日
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鑑賞方法:映画館

興奮

司馬遼太郎が原作小説を連載したのは 1964〜1966 年,TBS が豪華な配役で3夜連続の正月時代劇を作ったのが 1981 年であった。私が原作小説を読んだのは 40 年近く前のことになる。文庫本で全3巻の長編は,3晩に分けて長時間ドラマにするにはピッタリの題材であったが,高々2時間そこそこの映画にするには尺が足りないのではと思ったら,やはり不安が的中した。

映像は,現存する安土桃山時代の建物をできるだけ活用しようとしたロケーションは見事で,普段は立ち入りが許されない東本願寺の御影堂や,大垣城に見立てた彦根城など,非常に見応えがあり,また,本当の関ヶ原での撮影なども見られて,30 年ほど前に出張のついでに歩いて回った関ヶ原の風景や位置関係が蘇ってくる感じがした。特に合戦シーンは見事で,当時の合戦はこんなだったのかもと思わせるだけのリアリティがあったと思う。一方、初芽を取り巻く庶民の姿は乞食にしか見えず、犬HKのタイム・スクープ・ハンターと同じ日本人蔑視が見られたのは腹立たしかった。

残念だったのは脚本であった。原作小説と同じく,長浜の寺で秀吉と佐吉(後の三成)が出会うシーンから始まり,原作小説の冒頭の文章まで朗読されるので,これは原作を尊重した脚本かと期待したのだが,その期待はあっけなく裏切られた。何と,半分以上が原作と設定が異なっていたり,原作に描かれていなかったシーンであり,原作に出てきていない人物もやたら沢山登場していた。特に許し難かったのは、石田隊に沢山の半島人兵士が参加していたというとんでもない設定である。日本史を冒涜するのもいい加減にしろと言いたい!

この監督は,「日本のいちばん長い日」のリメイク版でもそうだったが,あえて本道を外して斜に構えたような作り方をするのが鼻につく。結果的にそれ1本だけ見ても話が見えなくなってしまうというところが致命的ではないかと思う。本作を見て関ヶ原の合戦を知ろうというのは無理であり,予め歴史の教科書でもひっくり返して読んでおく必要がある。逆に,原作や当時のことが頭に入っている人には,かなり違和感を与えてしまうという困った作りになってしまっていた。

余計な話を詰め込んだせいで,小山評定や島津の退却戦が描かれなかったというのは,一体どういうことなのかと思った。また,原作でも不要だった初芽の関連シーンは,今回もほとんど話の邪魔をしているだけで,三成が示す態度も,他のシーンとの違いが目を覆いたくなるほどであった。小早川秀秋の関連シーンと初芽のシーンは多すぎたのではないかと思った。

役者は,現在の日本の時代劇俳優の不足感を痛いほど感じさせていた。役所,岡田,平あたりは流石だと思わせられたが,本多正信,大谷刑部,加藤清正,福島正則,黒田長政,安国寺恵瓊らを演じた役者が初めて見る顔で,三國連太郎,高橋幸治,藤岡弘,丹波哲郎,三浦友和などを惜しげもなく当てていた TBS のドラマ版に比べると著しく見劣りがした。有村架純は一人だけ現代人が混じっているような違和感が終始抜けずに非常に困り果てた。小早川秀秋を演じた東出はかなり頑張っていたように見えたが,当時 19 歳の秀秋を演じるには歳をとりすぎていた気がする。秀吉も,全く秀吉には見えなかった。一方,中越典子や伊藤歩は儲けものだったような気がした。

音楽は初めて見る名前の方だったが,かなり頑張っていたように思えた。だが,ブルガリア民謡風の曲がなぜこの話に使われたのか,違和感が抜けなかった。長い戦闘場面に被せるには,やや力不足であったような気がした。グラディエーターのハンス・ジマーに比べてしまっては期待し過ぎであろうか?

三成の人物設定がほぼ原作通りだったのに対し,家康の作りにはかなり違和感を感じた。役所広司の太った作りは特殊メイクなのであろうが,背が高いためにまるで相撲取りのようで,乗馬シーンなどは馬が気の毒に見えてしまうほどであった。合戦のシーンは黒澤映画に迫る迫力であったが,土埃の立ち方まで気を配っていた黒澤のこだわりに比べると,やや物足りなさを感じてしまった。こちらの期待し過ぎであったのだろうか。
(映像5+脚本2+役者3+音楽3+演出3)×4= 64 点。

アラ古希