「映画的な叙情詩の世界。ワン・オブ・ゼムの2人の心の出逢い」映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
映画的な叙情詩の世界。ワン・オブ・ゼムの2人の心の出逢い
「舟を編む」(2013)の石井裕也監督作品。今年、満島ひかりと離婚したというので、プライベート問題もあったかも。前作が「バンクーバーの朝日」(2014)だから、実に3年ぶりである。同作は高畑充希ちゃんのブレイクポイントになった作品だ。
そのひさびさの石井監督が挑戦したのは、なんと"詩集"の映画化である。原作というべきか、人気の詩人・小説家である"最果タヒ"の同名詩集を基にしている。
最果タヒは、"さいはて たひ"と発音する。カタカナ名の"タヒ"は、漢字の"死"を意味するらしい。
映画は、詩集収録の40篇の世界観をモチーフにして石井監督がイメージを膨らませて、脚本を書き下ろし。"東京"というメトロポリスに、2人の男女の存在を浮かび上がらせている。ひとりは看護師ながら、夜はガールズバーで働く美香と、工事現場で日雇い労働でギリギリの生活をする青年・慎二の出逢いと、恋愛のはじまり。
主演は池松壮亮。生まれつき左眼が不自由という障害を持った慎二役である。映像もスクリーンを左右スプリットにして、左側をブラックアウトさせたり。
またヒロインは、石橋静河を大抜擢。彼女は、石橋凌と原田美枝子の次女で本作が映画初主演である。なんとなく、満島ひかりに似ている。ヒトの好みってなかなか変わらないものね(笑)。
そのまんま、叙情詩なセリフが並ぶ。そこに"渋谷"と"新宿"の街並み、夜の繁華街がコラボレートしていく。原作を未読なので、元となった詩篇がセリフにそのまま使われているのかどうかは分からない。ただ、こういった詩的表現のセリフを使う映画は珍しくはないので、比較的ニュートラルに観ることができる。
近い関係の知人との、死や別離が起きるエピソードがあるものの、全体としては何にもない"。都会の人間は、取るに足らない、"ワン・オブ・ゼム"である。そんな"ワン・オブ・ゼム"の2人が心を寄せ合い、そこから前向きな思考を得ようと、あがき続けている。ナイフのような攻撃的な会話、切ない心理描写、単なる"ボーイ・ミーツ・ガール"でなく、そこに生き様が淡々と流れていく。
映画は素晴らしいが、個人的には、東京生まれで渋谷・新宿育ちなので、東京はこんな街ではない。人が多いから寂しいなんていうのは、"田舎者の言い訳"にすぎない。
さらに余談だが、看護師はハードワークだし、夜勤もあるから、ガールズバーの掛け持ちって…どうなんでしょうね。
(2017/5/20/新宿ピカデリー/シネスコ)