「演技以外は観る価値なし!」あゝ、荒野 前篇 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
演技以外は観る価値なし!
赤裸裸なのと下品で小汚らしいのを混同してはいけないと思う。
本作はもちろん後者だ。
木下あかりが裸をさらけ出して大胆な演技をしたことには拍手したいが、セックスシーンはあんなにいるのだろうか?
また時代設定が謎である。
東京五輪も終わった2021年の日本が舞台らしいが、五輪景気が終わって1年ですぐに不景気になるとは思えないし、特に生産年齢人口は今よりも低下していて就職率は今以上にいいので、若者が自殺したくなる世の中とは思えない。
しかも現在自殺者数は減少傾向なのだ。
また自殺志願の東都電力社員が登場するが、今ですら世間で東電の原発問題は殆ど話題にのぼらない。
2011年から10年経った社会で自殺したがる元東電社員とは何者だろうか?
そのくせ新次や建二の人物描写や家庭環境はこてこての昭和である。
母親から教会に捨てられてぐれて人を殺しかけた新次、飲んだくれの親父に体罰を受け続けて吃音症となった建二、平成の次の世にこんな昭和の典型的な不幸をひきずられても困る。
悪い家庭環境からボクシングで更正しました!ってのはもはや今更だ!
全てがちぐはぐだ!
それから、学費を出すかわりに自衛隊の奉仕活動か老人介護を義務づける法律ってなんだ?
説明中に自殺した若者がいたが、自衛隊へ行くのが嫌で自殺するなら老人介護を選択すればいいだけの話なのではないか?
大学の学費を払うために軍隊に入隊する発想はおそらくアメリカを参考にしていると思うが、長くデフレの続く日本ではアメリカほど学費は高くない。
アメリカでは名門大学だと4年間で1000万円を軽く超えるようだが、日本では私立の名門校で600万円ぐらいであり、大学独自の奨学金制度も充実していてそちらを利用すればいいだけの話である。
現在フランスやスウェーデンなどヨーロッパにおいて徴兵制度が復活している。
日本もこのままでは徴兵制度が復活するかもしれない!
なわけない。
そもそも日本に陸続きの国はない。日本の敵になりうる勢力はチャイナや北朝鮮、ロシアである。
彼らと戦争するにしてもまずは海で戦うし、もっと言えば日本を侵略するにしても敵はまずミサイルを撃ち込むのである。
徴兵制度で数年後には除隊してしまい簡単な陸戦兵器しか扱えない兵士は弾除けにもならない。
本作ではこの議論を避けるために海外での平和維持活動に限っての徴兵にしている。
現在防衛費は5兆円程度で近年斬増している。しかし斬増している分はアメリカからの戦闘機の購入や護衛艦の建造などほぼ装備に回っている状態である。
装備は増えても人員が増えずに隊員の稼働率が大変なことになっている。
おっ、なるほど!その人員を確保するために海外派遣の分を国内に戻すための徴兵制度の復活ってわけね!
って馬鹿か!
ステルス戦闘機のF35の操縦にしろ、護衛艦の乗組員にしろ専門の訓練が必要である。
海外派遣されるのは陸自隊員である。陸自隊員を海自や空自に配属変更できるわけないだろ!
それに徴兵して海外派遣するにしろ無料じゃない!
訓練するにも武装させるにも派遣するにも費用はかかるのだ。
それならそもそも防衛費を増やして自衛隊員を多く雇って始めから専門の技能を訓練する方が効率的である。
寺山修司が原作の小説を執筆した1960年代当時は安保闘争や学生運動もあったが、今はそんな時代ではない。
寺山は左翼傾向が強い作家だろうが、寺山が今現在生きているとして時代背景を曲げてまでこんな劣悪な作品を書くとは思えない。
昨今の日本映画を観ていて思うのは、左翼的な監督や脚本家の書く作品は尽く間抜けだということである。
本作にはシールズを模した団体やデモ行進が登場するが、日本の安保状況を改善し、日本の対外的な地位を向上させ、憲法改正をしようとする安倍政権がそれほど憎いのか、という印象しか受けない。
菅田将暉やヤン・イクチュンは真剣にボクサー用の体作りをしただろうし、出演者の演技も総じて素晴らしい。
しかし、筆者は日本国民としてこの作品を賞賛しないし、してはいけないと思っている。