「そっと瞳 閉じてみる 見る?」あゝ、荒野 前篇 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
そっと瞳 閉じてみる 見る?
自分が生まれる前に出版された唯一の寺山修司小説が原作。勿論、原作は未読であり、寺山修司の情報は、『覗き』で逮捕なんていうスキャンダルな内容(私有地侵入の罪なだけだが)でしか持っていなかった自分とすれば、現代で言えば、宮藤官九郎みたいな人なのだろうかとイメージを膨らませる。いや、もっと前衛的なアーティストなのかもしれない。
作品では時間設定を2021年にしているのだが、これもまた勝手に深読みすれば、東京オリンピック開催後の世界、そして熱気、浮かれから醒めて、急に現実が襲いかかってくる日本、その中でも新宿が舞台であり、底辺の人間達の苦悩葛藤を煮しめたテーマ設定となっている。リアリティを追求する中で、苦しく切ない群像劇が繰広げられ、それぞれの登場人物が少しずつ収れんされて一つの太い束にこれから押し寄せる予感までが前半である。そういう意味では長い長い前フリといえなくもない。原作自体が未読だから不明だが、余りにも色々な人間関係が都合良くフックされてゆく流れは、勿論フィクションだし物語なのだから仕方ないのだがこんな箱庭みたいな世界観で良いのか首をかしげてしまうのだが、これも寺山ワールドなのだろうか?
但し、登場人物の力強さとアイロニーは、俳優達の努力が伺える表現となっていたと思う。この手の『尖ったナイフ』的ナイーヴを演じたら菅田将暉以外は思いつかないし、新宿という或る意味治外法権的な匂いを表現させたいのならば、韓国の俳優は適所なのだろう。さぁ、これから怒濤の後半戦を楽しみに鑑賞したいと思っている、そう期待を抱かされる作品である。個人的には『吃音』の問題は、他人事ではなく、正に自分自身それに悩み、今でもそれが基での軽いコミュ障を自覚しているから。