「語り部の自由」ミス・シェパードをお手本に フリントさんの映画レビュー(感想・評価)
語り部の自由
脚本家とホームレスおばあちゃんの日常を綴った話
「これはほとんど実際の話」で始まる物語、語り部は脚本家なので回想録の様だが、少し異色である。
なぜなら語り手が二人いるのだ。実際行動に移す自分と脚本家として机の前にいる自分。いきなり二重人格で話が語られる。
主人公は自問自答、葛藤しながら生活している男なので実際の出来事とフィクションの出来事、妄想が入り混じっている。だが決して支離滅裂な訳ではないし視点もしっかりしているので見ていて面白い語り口だと思った。
そんな主人公の所に転がり込んだ正体不明の偏屈な老婆、こちらも物凄いキャラクターなので興味が湧く。話が進むにつれて正体が分かってくる展開も気持ちがいい。
マギー・スミス演じる老婆は一見意地悪、自己中なのだが、何処か気品があり謎めいている所が魅力的でいい味を出していた。
主人公の好奇心と観客の好奇心が上手く一致しているので違和感のない展開で少しづつ距離を縮めるのが心地いい。
ホームレスゆえの臭いの描写や主人公のうっすらゲイぽい私生活も優しめに表現しているので全体的に嫌悪感の少ない作りだったのも好感がもてる。
下町の雰囲気の良さ、ご近所さんとの会話などの一つ一つが丁寧だし、不思議な関係の二人をいつまでも見ていてくなる、そんな作品だ。
実際自分が体験するのは嫌だが、こんなホームレス近所にいたら面白いかもなと思ってしまった。
人間それぞれに生まれてから今までの歴史が有るのだから、どんな人でもドラマが有るのだと改めて思った。
最後は主人公が語り部としての特権を使って締めくくるのだが、とてもいい終わり方だった。
この様な締めくくりは初めてだったので驚きと幸せが同時にやって来て見ていて新鮮だった。
ロンドンの片隅で起きたちょっと不思議な話、興味があるなら見て損は無いと思う。
劇中セリフより
「人生に足踏み期間なんて無い、時が人を動かすのだから」
止まっている様でも、実際は何かしら得ているものがある
行動に移せなくてジッとしていても、案外力を蓄えるための期間だったり、次の一歩に必要な大事な時なのかも知れない。
モヤモヤして動きたくない時、時間を無駄にしたと思った時は、この言葉を思い出そうと思った。