「信じることで守られる」ラストレシピ 麒麟の舌の記憶 movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
信じることで守られる
レシピの呪縛。
満州で世界をもてなす料理を沢山生み出し、海外要人達をうならせ、天皇陛下にもお披露目するはずだったレシピ達。それを作った山形直太朗は、のめり込んで完璧を追求すると周りが見えなくなる時もあったが、最愛の理解者千鶴が娘と引き換えに亡くなり、娘を育てながら「周りの人を信じ愛すること」が一番必要な事だと気付き、料理による民族融和のベースとして、周りとも調和が取れていく。
一緒にレシピを完成させた仲間達の満州の先民族である中国人陽氏と、山形直太朗夫婦の満州移動に同行した西畑大吾扮する日本人鎌田。彼らは実はそれぞれ軍に利用されており、中国人は天皇に毒を盛る容疑を着せる対象として初めから仕組まれていて、山形大吾扮する若者は実は初めから山形直太朗の監視役だった。
でも、それを知っても、中国人を逃がして庇い、鎌田の本心を信じているのは、共に料理を作り上げてきて築いた絆や、周りを信じる力を身につけた故である。
結果そのお陰で、書き上げたレシピは仲の良いロシア人を信じ預けたことで後々中国人にわたり、そこから娘にわたり、さらに孫まで渡った。
妻はレシピの道半ばで亡くし、山形直太朗本人は天皇に毒を盛る任務を受けず中国人を逃がし、もてなし用に作り上げたレシピを燃やしたため、指令を与えた軍人に射殺された。娘の幸は両親を亡くしたが、厨房の、軍人向け食堂の料理長に引き取られ、日中戦争勃発後も戦火でも実の娘の様に命を守られた。幸は料理人と結婚するが夫に先立たれ、3歳の息子、充を1人育てていたが、陽さんから届いたレシピと、父親代わりの料理長、鎌田の力を借りながら料理屋を営もうとするが初日に隣の店の火事が燃え移り、レシピを守るため火の中に入り命を落とす。充は料理長の息子が園長となり運営する施設、すずらん園で大きくなるが、一度食べた料理は忘れず再現できる舌と腕の持ち主。園長に心を開いたりは出来ぬまま、園長は亡くなってしまったが、祖父山形直太朗が信じた沢山の人達の存在に守られていたことを知る。
充自身も、何かを作り上げるには何かは犠牲になると考えるタイプで、すずらん園を飛び出して料理人になって始めた料理屋は、料理はとても美味しいが完璧主義ゆえ同僚達を信じられず満足できず、人が離れ客が離れ借金だけが残った過去がある。借金のためなら心などなく料理をする価値観だったが、ルーツを知り生き方が変わっていく。
だが疑問が。
・綾野剛はなぜレシピ内の黄金炒飯を作っているの?綾野剛の父について一瞬だけ出てくるので、実は山形直太朗と綾野剛は繋がっていたなどという伏線かしらと観るものを欺くためのミスリードを行う、存在自体がだまし要員。
・レシピで春夏秋冬を再現と言うが、食材の冷凍技術などが発達していない戦前、四季の最高の食材を揃えるの、無理じゃない?
・幸か命と引き換えに守りに行ったレシピが、料理長の息子に渡った経緯は?火事の中にあったはずのレシピなのに、もしかしたら幸がレシピを守るために抱えたまま亡くなったのかもしれないのに、綺麗過ぎないか?
・満州での日本軍、時代考証とは違うような。でもジャニーズのファンは多いから、誤った知識でも広がりやすそう。
二宮くんがレシピの呪縛にとらわれるのは、流星の絆以来だし、西畑大吾もごちそうさんでの役の延長のような。ひとつひとつの仕事の積み重ねなんだなと感じた。