「現代人が無意識の中でどれだけ便利さを享受しているのか。コロナや直近...」サバイバルファミリー 森林熊さんの映画レビュー(感想・評価)
現代人が無意識の中でどれだけ便利さを享受しているのか。コロナや直近...
現代人が無意識の中でどれだけ便利さを享受しているのか。コロナや直近ではドコモの通信エラーなど、当たり前だった世界が唐突に変わった時、それらがもし唐突に無くなった時に人はどうなるのかという作品。なのだが、停電程度ならともかく自動車や電池もダメという状況で、飲み水や食料を確保せずに公務員やインフラ関係でもない一般的な会社や学校に出て来るアホがこんなにいるのだろうか。社畜、奴隷精神も甚だしい。まぁただ自分もコロナを甘く見てマスクがなくて慌てた口なので、そこまで偉そうなことは言えないが。
家族は母親以外よくいそうな感じであり、高圧的で子供に嫌われそうかつプライドが無駄に高く、間違いを認められない父親。まさに現代っ子という感じの高校生の長女。大学生の長男は家族には無愛想なのに、恋心を抱く相手には中学生かよという舞い上がり方をして、異常後はわざわざ隣県の家まで自転車で様子を見に行くというストーカー的な行為もしており、なんとも不気味な感じ。まぁ中盤は知識を武器にこれまでノータッチだった自動車のバッテリー補充液に着目するという展開があるのだが。母親は魚を捌けないというのがいかにも今っぽい主婦だが、大学生、高校生の子供がいるような年齢で、こんな美人な母親がいて堪るかと思ってしまう。
正常性バイアスとでもいうのか、自動車さえ走らない状況で飛行機が飛ぶ訳無いだろと思うのに空港まで行ったり、大阪に行けば大丈夫と噂話を信じたりというのが首を傾げてしまうところ。本当にそんな状況ならばとっくに助けが来ていると分かりそうなものだが。結局一家は自転車で延々と岡山まで旅を続ける。どう考えても体力がある長男以外は厳しいと思うのだが、本当に踏破出来るものだろうか。一家は基本的に犯罪はあまりせずに真面目にボッタクリホテルに泊まったり、野宿したりするのだが、空き家に侵入して寝室使えばいいのにと思ってしまった。
豚を捕まえるシーンからは急激に話が展開し、豚の解体などで一気に逞しくなる一家。ところが河を強引にイカダで横断しようとした結果、流されて父親は行方不明。野良犬に襲われて母親が足を骨折し、絶体絶命というシーンで突如蒸気機関車がやって来る。奇跡的に助かった父親は偶然ポケットに入れていた発煙筒を炊いたお陰で合流。そしてあっという間に鹿児島に辿り着き、自給自足の生活が始まる。しかし河を強引に横断しようとしたシーンは本当に意味不明で、食料もたっぷりあって強引に急ぐ必要もなく、しかも雨はすぐに上がるという有様。中盤でも強風と雨に米がやられるシーンがあったのだが、どちらも唐突に降る訳無いだろと思ってしまった。
劇中で死ぬ人が序盤にしか描かれていないが、透析患者、要介護、単身老人世帯、限界集落はほぼお手上げ、出生率の改善が見込めるということで、ある意味日本の国民皆保険制度や超高齢化社会の改善になりそうであるというのが皮肉。また、細かい描写ではあったが、お隣さんが犬を置いて出て行くシーンはなんとも悲しい。終盤に野良犬が出て来るシーンがあるのだが、逃せばなんとかなると考えた人たちも無責任な飼い主と同じようなものだろう。
最後は電気が復帰した世界で元通りかと思いきや、逞しくなり、家族の絆を取り戻した一家という感じで締めくくられるが、夜逃げ同然で出て来たマンションに戻って大丈夫なのだろうかと要らぬ心配をしてしまう。という訳でツッコミどころは非常に多いし、家族に焦点が当てられているので社会的な混乱の描写は控えめ。これが現実に起これば、正直もっと略奪が横行する世紀末感満載の世の中になると思う。とりあえず緊急時は食料、水の確保と、いざとなった時に使えるのは知識だなと思わされた。リアリティが乏しいが、もしこんな世界になったらという点は面白かった。