「本気のストレート時代劇が、カラ廻りしている」たたら侍 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
本気のストレート時代劇が、カラ廻りしている
正直、時代劇というフォーマットにあまり興行的な成功の余地は少ない。そんな中で、直球勝負に挑む、LDH(代表:EXILE HIRO)の志は、野望なのか、無謀なのか。
日本に限らず、歴史物のネタ切れは顕在化。焼き直しが甚だしいのが現実だ。かといってオリジナル時代劇で、ヒットを狙うのはきらに難しい。ドラマでもNHK大河以外の時代劇は、「猫侍」くらいではないか(笑)。
そこで時代劇は、"超人ヒーロー伝説"に展開する。「るろうに剣心」(2012/2014)のような、新機軸のスペクタクルは別格中の別格だ。そのエッセンスをだいぶ参考にしている、三池崇史の「無限の住人」(2017)だが、キムタクをもってしても、あまり芳しくない。
一方で、"タイムトリップ"に逃げ込む時代劇も横行する。「戦国自衛隊」(1979/2005)や「JIN-仁-」(2009/2011)、「幕末高校生」(2014)、「信長協奏曲」(2016)、「本能寺ホテル」(2017)など・・・もう食傷ぎみだし、なぜか綾瀬はるかが多い気がする。
さて、そんな中での「たたら侍」。"何をか言わんや"である。奇抜な設定ではない、まっすぐな時代劇であるところは素晴らしいが。
本作は、出雲地方に伝承する、古来の製鉄法である、"たたら製鉄"(ふいご吹き技法)をネタにしている。鍛冶技術の継承を運命づけられた青年が、サムライに憧れる。戦国時代の変革のうねりの中で、"変化"への焦りと、"不変"であることのはざまで葛藤する姿を描いている。
一見、テーマはオリジナルっぽい。しかし、たたら村は、製鉄技術で得られる、"玉鋼(たまはがね)"が、盗賊や戦国武将に狙われている。これじゃ「七人の侍」(1954)ベースだ。
そんな黒澤映画の向こうを張って、予算の掛け方は相当である。人海戦術はないが、舞台となる"たたら村"は丸々、オープンセットである。建物の立て付けや外観の風化ぐあい。道端の草木、室内の柱や家具・道具、汚れに至るまで徹底的に手を入れている。4Kなのでぜんぶ見えてしまう。
デジタルVFX時代にフィルム収録の4Kスキャニングというのも、"本気"の現れ。収録クオリティが高いと、人工物のセットは作り物であることがバレバレになる。4K時代のセット撮影は、昔の日本映画よりシビアだ。これだけ頑張って、海外では"JAPAN STYLE"で通用したとしても、国内で、その本気は汲み取られるのだろうか。
今回は、脇役に実力派の俳優を揃えているので、演技の心配はいらない。むしろ問題は、主演の青柳翔(劇団EXILE)が喰われてしまうこと。津川雅彦の地声のでかさ、笹野高史の図々しい存在感はムダに強すぎる。
他の作品にも出演する、石井杏奈(E-Girls)の演技は個人的には好きだったりする。しかし、小林直己(EXILE、三代目J Soul Brothers)や青柳翔も含め、銀幕俳優としての、"華がない"。こういうところで、LDHの仲間意識は弱点になる。かといって「HiGH&LOW THE MOVIE」(2016)は、往年の"スターかくし芸大会"みたいだし。
ダメ押しは、村が何の脅威から狙われいるのか分からないこと。火縄銃の銃身を作るのに、"玉鋼"ほどのクオリティの鉄はいらないし。しかも取れ高は少ないし。
まるで動機が、監督の出身地の島根県の宣伝としか思えないこと。映像はきれいだ。だから、モントリオールの最優秀芸術賞は、ある意味で的確だ。
(2017/5/21 /TOHOシネマズ日本橋/シネスコ)