劇場公開日 2017年1月14日

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「綾瀬以外に見るべきものなし」本能寺ホテル アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0綾瀬以外に見るべきものなし

2017年1月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

単純

万城目学は,「鹿男あをによし」や「プリンセス・トヨトミ」など映像化作品の多い作家である。直木賞候補や本屋大賞候補に何度かノミネートされているが,未だ受賞はないらしい。その彼が,最初から映画化を目的として2年掛けて書き上げた脚本作品があったらしいが,プロデューサーに見せたところボツを食らい,泣く泣く断念したといった経緯が最近あったらしい。昨年末になって,そのボツになった脚本のアイデアだけを盗用された作品があると,万城目学が自身の Twitter で発言したことが問題となっており,作品名は明らかにされていないが,それがこの本能寺ホテルではないかというのがもっぱらの評判である。

本作の製作はフジテレビであり,「鹿男あをによし」も「プリンセス・トヨトミ」もフジの傘下のグループによって映像化されており,いずれも主演が綾瀬はるかであることや,「プリンセス・トヨトミ」とは主要キャラとして堤真一が出演しているところも一致していることから,ファンから見れば,一連の系列作ではないかと見えるのはやむを得ないような状況である。しかし,この映画のスタッフの中に万城目学の名前はない。万城目学の作品は,当初から脚本作品として書かれていて,未出版であったため,映画が公開されてしまった以上,そのアイデアを後で出版すればパクリと言われてしまう訳で,折角のアイデアを出版することも叶わなくなってしまった訳である。

ホテルのエレベーターがタイムマシンになっていて,本能寺の変前日の本能寺に繋がっているというアイデアだけが全てというような話である。タイプスリップがいつ起きるのかといった条件も,行った先でのやり取りも,結末も,特に大きなサプライズがある訳ではなく,信長にしては行動が不合理に過ぎ,偉大な権力者としての威厳やスケール感が映像的に全く欠如していた。森蘭丸などのイメージがかなり違っていたのは,それはそれで面白かったが,折角のタイプスリップの面白さが全く回収されていなかったのは,完全に脚本の失敗であろうと思われた。

役者は,綾瀬はるか以外に全く見るべきものがなかった。と言っても,綾瀬がそれだけ魅力的なキャラとして活躍していたとは到底言い難く,行動原理がそもそも不明であった。画面の中で見続ける対象として,綾瀬がこの映画にいなかったらと思うと,一体何を見ろというのかという気がするだけである。その意味において,綾瀬はこの映画の救世主とでも言うべきで存在であったし,一方,風間杜夫や近藤正臣は,まさに名優の無駄遣いというべき惨状であった。

佐藤直紀の音楽だけは出来が良く,エンディングで歌謡曲が流れてこなかったのも評価できたが,それ以外に褒めるべきものはほとんどないという作品であった。他人のアイデアだけ盗用して,その後をいい加減に作り上げた映画なんてのはこんなものなのだろう。現代と何度も往復しているのだから,私なら,当時の詳しい専門書を持って行って知識不足を補いながら状況を擦り合わせ,解決策を見つけようとするだろうし,当時の武具や有名人のご尊顔などをケータイやデジカメに収めようとしたはずである。この製作スタッフには,もし戦国時代に行けたら何をするか,という興味が全く持てていないのではないかと思えて仕方がなかった。
(映像4+脚本2+役者3+音楽4+演出2)×4= 60 点。

アラ古希