「テーマや登場人物へのウエイトが散漫で、焦点を絞り切れていないような印象が…」古都 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
テーマや登場人物へのウエイトが散漫で、焦点を絞り切れていないような印象が…
原作本を読んだ上での京都旅行の後、
1963年の岩下志麻版と
1980年の山口百恵版に引き続いて鑑賞した。
事前の情報では、
“その後の千重子と苗子”
の物語とのことだったので、
監督が川端文学をどう解釈して
原作外の双子の将来を描いたか、
に注力して興味深く鑑賞した。
この作品、千重子の夫が娘に発する、
「京都の人間は、
ほんまもんに囲まれて目だけは肥えている。
そやけど、自分では何が出来る、
何がしたい、それが分からなくなる」
との科白に集約されているように思う。
多分に、伝統を継続するための
“重責と主体性”が
この映画作品の大きなテーマなのだろう。
そして、そのために、
同じ伝統的古都としてパリを取り込んでも
みたのだろうが、
それまで再び会うこともなかった双子が
ラストシーンで娘同士が再会するとの場面を
設けたものの
双子を前提とした物語の意味性も失われ、
母娘の愛憎も、
最終版での目覚めを用意されていた
とは言え周りの人々に比べ
その双子と娘たち主要4名が
主体性を欠く人物設定だったこともあり、
また、何よりも私が注目していた
人としての“奥ゆかしさ”
を感じ取れない結果、
全てが上手く絡み合っていないような、
テーマや登場人物へのウエイトが散漫で
焦点を絞り切れていない印象が残った。
映画の世界では、
原作を大いに超えた作品も数多くあるが、
この「古都」においては、
川端文学を忠実に映像化した岩下志麻版が
優れた印象で、
原作から飛躍しようとした山口百恵版と
この松雪泰子版が
良い出来に感じなかったのは、
総合芸術としての映画界への期待からすると
少し残念に思えた。
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