幼な子われらに生まれ : 特集
映画評論家がこぞって絶賛している日本映画がある──
なぜ今、「“現代の”家族」を描いた本作が注目されているのか?
浅野忠信、田中麗奈、寺島しのぶ、宮藤官九郎、4人の実力派俳優が見事なアンサンブルを披露するヒューマン・ドラマ「幼な子われらに生まれ」(8月26日公開)が、映画評論家を中心に話題を集めている。原作・重松清、脚本・荒井晴彦、そして監督を三島有紀子が務めた注目作。その本質に、評論家たちの言葉も交えながら迫った。
“人間を描く”名脚本家ד映像美”の俊英監督ד役を生きる”実力派俳優
家族の条件、豊かな人生、生きる意味──本作はその“答え”を提示する
「やっぱりこの家、嫌だ。本当のパパに会わせてよ」。バツイチ同士で再婚した妻が連れてきた長女から、そう冷たく言い放たれる。一見良きパパに見えながらも、家庭と仕事の両方でもんもんとした思いを抱えるサラリーマン・田中信(浅野忠信)。そんな信と結婚し、いま新たな命を宿した妻の奈苗(田中麗奈)。信との間にひとり娘をもうけたが、キャリアを優先させるために信との別れを選んだ元妻の友佳(寺島しのぶ)。そして、自分の人生にとって「邪魔」でしかないと家族を愛せず、奈苗と娘たちを捨てた元夫の沢田(宮藤官九郎)。本作は4人の不器用な大人たちの姿を通して、本当の家族とはなにか、そして、血のつながらない他人でも家族となり得る希望を見る者の前に照らし出す。脚本家・荒井晴彦、監督・三島有紀子、そして4人の実力派俳優たち──映画ファンが注目するべき、新たなる良作の誕生だ。
「共喰い」「ヴァイブレータ」で人間の奥底に潜む本性を描き出した名脚本家・荒井晴彦が、直木賞作家・重松清と交わした映画化の約束が、21年の時を経て実現したのが本作。温められてきた脚本を、「繕い裁つ人」「しあわせのパン」ほか、ありふれた日々のさりげない幸せを美しい映像で捉えてきた三島有紀子監督が映像化し、新境地を開いた。
血のつながらない家族が本当に家族となっていく物語はもちろん、それを織り成す4人の実力派俳優たちの演技が必見だ。ハリウッドでも活躍する「沈黙 サイレンス」の浅野忠信が主人公・信を演じ、その妻には「葛城事件」の田中麗奈が扮する。「キャタピラー」の寺島しのぶが、信の元妻役として人生の後悔を募らせる姿を披露し、脚本家・監督としても活躍する宮藤官九郎がDV夫という難役に挑んでいる。
バツイチ同士で再婚した信と奈苗。奈苗の連れ子である2人の娘とともに幸せに暮らしていたが、奈苗の妊娠が発覚し、長女が本当の父親に会いたいと言い出したことから、家族の歯車が狂いはじめる。奈苗の前夫・沢田は家庭内暴力の常習者だったため、信と奈苗は長女と沢田の再会に反対するが、辛らつな長女の言葉に信の心は疲れ果て、この結婚は間違いだったのではないか?と思い詰めていく……。
高評価の評論家たちに聞く──なぜこのヒューマン・ドラマを推奨するのか?
“不器用な”大人たちへ贈られる《4つの価値》
なぜ見る者は心を不安で大きく揺さぶられ、やがて迎える結末に、我がことのように胸をなで下ろすのか。染みわたる思いを得られるのは、本作が伝える深いテーマ性に他ならない。そしてそれは、物語を紡ぐ脚本の力、言葉を映像にする演出力、体現する出演者の演技力のたまものだ。「演出」「脚本」「キャストの演技」「メッセージ性」に、5人の評論家たちが絶賛の言葉を送った。