奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール : 映画評論・批評
2017年9月12日更新
2017年9月16日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー
ラストショットの破壊力!水原希子は日本映画の枠に収まらない存在だ
女優としての経験も技術もまだまだ少なめだけど、水原希子は本気でボンドガールを狙えるポテンシャルの持ち主だ!
ことあるごとにそう訴えてきた筆者にとって、「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」の“狂わせガール”こと天海あかり役を水原希子が演じることは完全なる朗報だった。しかも「モテキ」で長澤まさみの美脚にフィーチャーし、彼女が殻を破るきっかけを与えた大根仁監督であるからして、期待するなという方が無理な話だ。
主人公は33歳の雑誌編集者コーロキ・ユウジ(妻夫木聡)。仕事ぶりにそれなりの自信を持っている彼は、10代の頃から「力まないカッコいい大人=奥田民生」に憧れ続けている。そんなコーロキが、アパレルブランドの美人プレス・天海あかりと出会い、恋の歓喜と愛の地獄を味わうボーイ・ミーツ・ガールにして成長ストーリーが展開する。
大根監督は渋谷直角による原作コミックのストーリーをほぼいじらず、カルチャーネタも時代に合わせて微調整をした程度。原作ではコーロキの状況や感情、理想を代弁していた奥田民生の歌詞が、BGMとして流れてくるのは本作の醍醐味だろう。また、つきあい始めたコーロキとあかりのデートやキスを点描で畳み掛けるパートや、ピチピチのジーンズを履いたあかりのお尻を舐めるように撮るカメラワーク、コーロキが働くライフスタイルマガジン「マレ」編集部やサブカル界隈人たちの描写、カルチャーネタやSNSツールの鮮やかな手さばきに、ディテールに手を抜かない大根監督の職人技が光る。
原作との大きな違いは、ややメンヘラキャラである原作のあかりに対し、映画のあかりはなんの闇もトラウマも抱えていないこと。自分に惚れた男の数で、自尊心を満たすわけでもなければ、自分の欠落を埋めるわけでもない。なんの動機もなく、呼吸するように男たちを夢中にさせてしまうのだ。無邪気を通り越して空虚さすら漂わせるあかりは悪女なのか? 一周回って聖母なのか? 普通の女優があかりを演じたら、原作のねっとりとしたキャラクターに戻ってしまう可能性があったが、水原の天真爛漫さや湿度の低いセクシーさによって、日本映画ではなかなか描かれたことのない、ミステリアスでポップなアイコンに仕上がった。
ネタバレになるので詳細は控えるが、あかりのラストショットの破壊力が凄まじい。このショットが、水原希子が日本映画の枠に収まらない存在である事の証明になっている。また、彼女とはまったく別のベクトルで爪痕を残す天才女優・安藤サクラの芝居も必見だ。
(須永貴子)