劇場公開日 1938年

「007の原型は戦前にヒッチコックが作っていた」間諜最後の日 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0007の原型は戦前にヒッチコックが作っていた

2019年3月15日
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鑑賞方法:DVD/BD

イアン・フレミングの小説が007シリーズの原作であるが、それは戦後のこと
本作は戦前にほぼ同じ構造の娯楽映画を撮っていることに驚く

死んだことになっている二枚目の秘密情報部員
彼に指令を出す英文字一文字の部長
彼に協力する美女は敵の誘惑を受ける
外国を舞台に豪華ホテルの華やかなカジノにタキシードで繰り出す主人公
観光地のスイスアルプスのシーンやクライマックスはコンスタンチノーブル行きの国際列車のシーンが展開される

ヒッチコック流のユーモアとウイットは主人公の相棒の将軍が受け持っている
しかしヒッチコックは一捻りを加えている
軽口を叩きながら女と見れば誰でも盛んに口説く
つまり主人公とこの将軍を一人に合体させた人物がジェームス・ボンドなのだ

その将軍、実は右側の耳にだけピアスをしている
つまり彼はゲイという設定なのだ
口説いていてもそれはスパイの仕事で本気ではないということ
ヒッチコックらしい捻りを加えている

そして騒音の中で台詞が聞こえずともお話が成立して行くシーンを何度も使う試みは、ヒッチコックの後年の作品でも使われる手法だ

スリルとサスペンスの切れ味は今一つ
ヒロインとのメロドラマでまとめてあるのは勿体ない
とはいえヒッチコックらしさは十分に感じられる作品だ
しかし本作のポイントは何と言ってもピーター・ローレの怪演だ
ラング監督の名作Mでの殺人鬼とはうって変わった陽気な様子は記憶にいつまでも残るものだ

あき240