「披露宴に出たような感動」TAP THE LAST SHOW 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
披露宴に出たような感動
有名なジーン・ケリーの「Singing in the rain」を見てもわかるように、タップダンスを踊る人は大抵笑顔である。タップダンスは脚だけでなく体幹の筋肉を激しく使う、ハードな動作である。練習のときは笑顔どころではないだろうが、本番では笑顔で踊る。それはタップダンスの楽しさを伝えたいという目的もあるかもしれないが、実は笑って踊ったほうが体が楽だから、自然に笑いが出るのだ。
例えば綱引きをするときには、多くの人が歯を食いしばり、声を出す。それはそうしたほうがより力が出るからだ。体と脳は、体の動きは脳に支配されているが、脳は体からしか情報を得られないという相関関係にある。体を使って脳に語りかけることによって、脳は自分の体の状態を推定する。試したことのある人は滅多にいないと思うが、ホラー映画を見るときに、笑顔で見たら怖さが半減する。
本作はタップダンスの映画だから、タップのシーンがふんだんに登場する。人が踊っているのを見ているだけで、自分が踊っている訳ではないのに、なぜか心が踊り、感動する。それはタップが刻むリズムによって、踊っている人の体の情報が、あたかも自分の体の情報でもあるかのように脳が錯覚するからだ。タップダンスの楽しさの神髄はそこにある。踊っている人も楽しい、見ている人も楽しい、それがタップダンスだ。
ラストのタップダンスの連続は圧巻で、脳のメカニズムでこちらも高揚してくる。映画ではダンサーの何人かにスポットを当てて、それぞれが舞台で踊るに至る経緯のシーンを盛り込んである。彼らにとってはもしかしたら最初で最後、一生に一度の晴れ舞台かもしれない。見ているこちらは、あたかも結婚式の披露宴で、花嫁の友人が歌を歌ったり、花婿の友人たちがダンスを披露したりするのを見ているような感動を覚え、自然に涙が流れてくる。
あれだけのタップを踊れる俳優は、そうはいない。当然ダンサー陣は無名に近い人ばかりになるが、若い俳優がそれなりに一生懸命頑張っているところは好感が持てる。流石にテレ朝が制作に加わっただけあって、六角精児や小野了、岸部一徳など、相棒メンバーが出ていたのはご愛敬である。
水谷豊は「少年H」の演技もとてもよかったが、今回はさらによかった。スーツの着こなしが素晴らしく、歳を取っても情熱を失わないダンディな中年がよく似合う。