「細部のアラが気になる人は見ない方が…」ロスト・バケーション うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
細部のアラが気になる人は見ない方が…
ブレイク・ライブリーの魅力が結実された、渾身の一本。
顔のシワやシミ、どころか、産毛にまでせまる近さで、効果的な音声とあいまって、彼女の内奥に入り込むような近さ。波乗りのシーンは息遣いと、素晴らしいロケーションで凡百のサーフィン映画を蹴散らすクオリティの高い映像を見せ付けてくれる。まるで、彼女と一緒に海にもぐっている様な錯覚におちいる。
ここまで自分をさらけ出すのに、相当な勇気が必要だったのではないだろうか。
それとも、撮影のクルーにここまでさらけ出せるほど彼女が近かったのか。
とにかく、ウエットに着替え、海に入っていくまでの映像は、見たことの無いリアルさだった。
さりげなく、医者の設定を生かし、怪我の治療を力技で済ますあたり、すごい盛り上げ方だ。なおかつ、冒頭で、カメラが極限まで近づいた分、彼女の痛みも叫んだり、血が出たりというレベルを通り越し、電流のようにこちらに伝わってくる。これは、今までに無い表現で、ちょっとした発明のレベルといってもいいかもしれない。
そして極限状況での、サメとの戦い。
身近なものを使ったサバイバルは、シンプルで力強い。
そのうえ、簡潔に、意外なキャラクター(カモメ)で、彼女の於かれた危機的状況を、表現する巧妙な脚本は、まさに職人的な上手さだ。
ハイコンセプトな映画は、役者がそのキャリアに刻み付けたいマイルストーンのような作品になる。そして、ひとり芝居ともなると、実力・人気・性格(スタッフとの疎通)の3拍子がそろわないと成立しないジャンルといえるだろう。
マット・デイモン『オデッセイ』トム・ハンクス『キャストアウェイ』意外なところでは、ブレイクのパートナーのライアン・レイノルズにも『リミット』などという作品があったりする。
女性のひとりサバイバルという視点なら、『奇跡の2000マイル』なんていう作品もあったが、あれも、女優に極限まで近づいた映画だった。女の一人旅にお供をする犬が、主人公の心理描写をする上での重要なアイコンであり、本作でのカモメに相当する。おとこ共が役立たずで場をかき乱すだけなのも、映画の語り口としてはよく似ている。そして、美しく、時には残酷に人間にのしかかる自然の雄大さも、カメラが見事に捕らえていて、詩情たっぷりに語りかけてくるのだ。あちらは、実話を元にしていて、この作品とは根っこの部分が違うが、相通じるものを感じた。
あっという間に見終わって、誰かに感想を伝えたくなる、いい映画だった。
マイナスポイント
======見ていない人は以下ネタバレ注意======
・サメ。おなかいっぱいにならなかったのか?
・酔っ払い。ストーリーをかき乱しといて、そんなオチかよ。
・サーファーたち、もう少し観察眼を身に着けろ。
・一緒に来る予定の女友達、(主人公との約束をすっぽかし、男と夜を過ごし、そのまま昼も主人公をほったらかし。ビーチの名前を聞きそびれるくだりが、重要な映画の伏線になると思わせつつ、最後まで触れず、伏線は回収されず。)もしかして回収シーンは全カット扱いになったのか。
・発光弾がクジラの油に引火するシークエンスが、まったく効いてない。(敵にも、ストーリー的にも)
2016.8.16