劇場公開日 2016年7月23日

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「パン、パン、パン、シャー(地面を滑る)、パン。」ラサへの歩き方 祈りの2400km Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0パン、パン、パン、シャー(地面を滑る)、パン。

2021年4月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画館によって観る印象は変わるのだな、と気付いた。
2018年冬に「イメージフォーラム」で観たときは、コンクリートの冷たい床に呼応して、特に前半部分の五体投地や天候の厳しさが印象に残った。
今回、「岩波ホール」で観ると、幸福な巡礼の姿を映した“文化芸術作品”に感じられた。
どちらも真実なのだろう。

本作は、「ドキュ・フィクション」と呼ぶそうだ。
特にストーリーはなく、“見ての通り”というノンフィクション系作品と言って良いだろう。
監督自身も最初は「何を撮ればいいのか分からなかった」というが、巡礼の準備から巡礼地での行動まで、フィクションという利点を生かして、“あらゆること”を映像に収めてやろうという執念を感じる。

風景や天候や季節の変化、路上での五体投地とテント内での祈り、道中での人々との出会い、買い物や日銭を稼ぐためのアルバイト、そして、赤ん坊の誕生と老人の死まで。
落石や冠水した道路のシーン、“先達”の老人にお説教されるシーン、ラストの“風葬”のシーンは印象的だ。
面白かったのは、映画「タルロ」でも出てきたが、男が床屋の若い女に魅惑されるシーンで、肌のふれあいは、彼らにとってはかなりエロチックなことなのかなと気付いた。
本当に呆れるくらい、色々なことが収められている。

副題の「2400km」の意味が分からなかったが、家からラサまで1200kmの“往復”という意味ではなく、ラサからカイラス山までさらに1200kmなので、片道1200km+1200kmということらしい。
しかしこの映画では、ラサが終着地で、カイラス山にはついでに立ち寄るかのように描いているので、ラサからさらに1200kmとは驚いた。
ただ、ミスリードというよりは、描くべきことはラサまでの1200kmで、すべて尽きているということなのだろう。

わざとらしく作ったようなシーンがたくさん出てくるこの映画は、“リアルな巡礼”ではなく、巡礼の“歩き方”を映した作品なのだろう。
素晴らしい邦題である。

Imperator