「アニメ映画の隆盛の理由」ひるね姫 知らないワタシの物語 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
アニメ映画の隆盛の理由
胆の据わった主人公である。今時の女子高生がいくら強気でも、ここまで豪胆な女の子は滅多にいそうにない。そして驚異的な身体能力。実写化はよほど沢山のCGを駆使しないと難しいだろうし、そもそも沢山のCGを使う時点で実写化とは言えなくなってしまう。身体能力だけでなく、メンタルも強すぎて、この主人公の役を生身の女優さんが演じることは不可能である。ひどい目に遭っても全然泣かないどころか、動じた様子さえ見せずに落ち着いて次の行動を考える。精神面は人間よりもロボットに近い。そういう女子高生を人間が演じた場合、どんな達者な女優さんでも、少なからぬ違和感を与えてしまうだろう。
ところが、実写ではなくてアニメの主人公だとすんなり受け入れられる。2メートルのジャンプをしても斜めの鉄骨を駆け上がっても、こんなことはあり得ないどと批判的な気分になったり、演出の強引さを感じたりすることがない。アニメの表現は生身の人間の具体性に較べれば、どこか抽象的であり、観客にとっては非現実的である。そして観客は無意識のうちに、アニメの抽象性と非現実性を大前提として映画を観ている。実写だと受け入れられない演出が、アニメだとすんなり受け入れられ、感情移入までされるのはそのためなのだ。
実はこの点にこそ、近年のアニメ映画の隆盛の秘密がある。アニメでなければ出来ない表現を映画にしているからこそ、実写では感情移入出来ない主人公に感情移入し、実写では共感できない世界観に共感する。「君の名は。」も「この世界の片隅に」も、この法則に則っているのだ。
本作品も例外ではなく、巨大な会社組織の中で働く人々が人格をスポイルされているというスケールの大きな世界観を前提に、利益追求だけを是とする勢力から追い詰められつつ、ひとりの女子高生である主人公が極めて日常的な感性を堅持しながら、勇気を出して立ち向かっていくという、あり得ない物語である。あり得ない物語でありながら、アニメの抽象性によって観客には十分なリアリティをもって訴えかけてくる。老若男女関係なく、主人公の行動にハラハラさせられるのだ。アニメの特性を存分に生かしたいい作品である。