「音源・写真は貴重なれど、深掘り不足」ヒッチコック/トリュフォー りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
音源・写真は貴重なれど、深掘り不足
このタイトル、ゾクッとした。
1962年、トリュフォーがヒッチコックに1作品ごとに丹念にインタビューしてつくられた本『ヒッチコック/トリュフォー 映画術』を思い出したから。
それもそのはず、当時のインタビュー音源をもとに再構成して、ヒッチコック映画の秘密を探ろうという映画だから。
さて、映画の内容は・・・といっても、先に書いたことが全てなのだけれど、マーティン・スコセッシ、デヴィッド・フィンチャー、アルノー・デプレシャン、黒沢清、ウェス・アンダーソンといった名だたる現役監督が、ヒッチコック映画について「おお、あれは素晴らしい」とか「最高だ」とかの大多数が賛辞のコメントを寄せており、それにかなりの尺が割かれている。
これは映画として正解なのかどうかは少々疑問。
まぁ、著名な監督のお褒めの言葉は、ヒッチコック映画への入門編として妥当かもしれないが、職人監督・テクニシャン監督としてのヒッチコックの技術を本『映画術』からもっとたくさん引用してほしかったところ。
『めまい』における、ジェームズ・スチュワートが高所恐怖症のために、宙ぶらりんで覗いた遥か彼方の地面が遠のいていくシーンや、
『サイコ』における、マーティン・バルサム扮する探偵が、謎の人物に襲われ、階段を落ちていくシーンや、
この映画では登場しなかったけれど、『白い恐怖』のラストでレオ・G・キャロルが握る銃の銃口がこちらを向くシーンなどを、どのように撮ったのか。
本では、トリュフォーは、ここいらあたりも訊いている。
いまやCGを使えば、どのようなシーンでも描けるようになったが、当時はそんなことはなかった。
動かないものを、どのように動かすか。
そして、動かない観客の感情を、動かない画の連続によって、どのように動かすか。
ヒッチコックは、そこに注力していた。
モーション・イズ・エモーション。
貴重で、かつ興味深い題材だったけに、いま一層の深掘りが欲しかった。