「バンド映画を期待して観たので乗れなかった。 青春映画ではなく「セカ...」シング・ストリート 未来へのうた 雨丘もびりさんの映画レビュー(感想・評価)
バンド映画を期待して観たので乗れなかった。 青春映画ではなく「セカ...
バンド映画を期待して観たので乗れなかった。
青春映画ではなく「セカイ系」映画。主人公が自分"だけ"の幸せを歌い上げ、ノーストレスで幸せな世界を渡っていくおめでた~い物語。
【彼氏から自作テープ貰ってときめく?】
監督はバンドマンだったそうだけど、本当に?と疑わしくなるほどありえない描写が続く。
カセットに吹き込んだ自分の歌声を、次の日に聞いて自己嫌悪しないヤツなんかいないわ(苦笑)。
同時に、その音源がどんなに拙いモノであっても、部外者に叩き割られて怒らない奴もいない。
だって仲間と協力して作ったものだから。
録音中に母親が踊りながら入ってきたら一気に冷めるし。
「初ライブは全曲オリジナルで!」なんて言い出したら、メンバーから必ず「そんなの無理だ。カバーも入れよう」と意見が出る。
バンドは必ずドリーマーとリアリストが衝突する。
それを乗り越えたり、妥協したり、我を通したら案外うまく行ったりして、成功や失敗を経験することがバンドのダイナミズム。
どんなに有名バンドのライブでも、
オーディエンスが新曲に熱狂することは500%ありえない。
学園祭レベルの音響機器では、歌詞なんか聞きとれないし。
ステージ上でうっとり「ライブ大成功!」な妄想に浸れる余裕もありえない。
容赦なく襲い掛かってくる現実を前にして、ガチ緊張するから。
そんなさ中、リーダーが独断でセットリスト変更して、ピアノ弾き語りなんか始めたら・・・私がメンバーなら帰る。やってられない。バンドはお前だけのモノじゃねーんだよ。
ジャイアンな彼の絡み方やいじめ方は真に迫っていたし、苦しい生い立ちを経て、そしてボディーガードとして活躍し、という救済は大好き。
ふてぶてしいようにみえた兄貴が、実は誰よりも純粋に家族愛を抱きしめていたという真相も愛おしい。そして、安易にバンドに参加しないのも秀逸。
ナイス、監督やるなぁ、と思った。
ただ、この映画は一貫して主人公の夢(都合の良い話し運び)に終始しており、そのために脇役が全員ただのマネキンで、それぞれのドラマが完全に「無いもの」として処理されているのが好ましくなかった。
別にバンドじゃなくてもよかったのでは?
つまり、青春映画でなくセカイ系映画。
最終的に主人公とヒロインのみが希望に向けて漕ぎ出し、他のメンバーの都合は無視してハッピーエンドを迎える展開が頂けなかった。