「チリの暗黒の歴史や大人になったエマはいいが…」コロニア 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
チリの暗黒の歴史や大人になったエマはいいが…
どの国にも必ず、暗黒の歴史がある。
恥ずかしながら、チリ・クーデターを知らなかった。
時の大統領を打倒し、軍事政権下に。1973年9月11日だった事から、“もう一つの9・11”と呼ばれているという。
反体制分子が送られる先は…
“コロニア・ディグニダ”。
表向きは慈善事業の農業入植地だが、その実態は、“教皇”と呼ばれるナチス党員が支配する拷問施設。入ったら二度と出られない…。
それを承知で入った者がいた。
キャビンアテンダントのレナはフライトでチリを訪れ、現地ジャーナリストの恋人ダニエルと再会。久々の甘い時を過ごす。
しかし、ダニエルが反体制分子として囚われ、コロニア・ディグニダへ。
ダニエルを救う為、レナは身分を偽って入所する…。
映画的なサスペンス×メロドラマだが、何と実話に基づく。
ダニエルが受ける拷問。
これから始まる地獄の体験を恐ろしく期待させる。
皆が施設長の元ナチス党員を恐れ、崇める。
レナと同じく農業に従事する女性。施設内の男性と密かに結婚する予定。監視役の中年女性が巧みにレナから名前を聞き出す。悪魔、ふしだらと罵られる女性は婚約者も含めた男性たちから粛清を…。
ここら辺はゾッとさせる。が、
遂に魔手はレナにも。平手打ち。…えっ、それだけ?
施設で数ヶ月も過酷な労働を強いられているのに、疲労感や汚れも無いのは如何なものか…?
ダニエルと密かに再会。拷問で精神薄弱になったかに見えたダニエルだが、監視の目を欺く為に。
地下通路を見つけ、レナと脱出を図る…のだが、何故かサスペンスや緊迫感がいまいち盛り上がらない。
クライマックス。同僚のパイロットの手配で飛行機に乗って国外脱出。が、逃げ込んだ大使館員も奴らの手先で、乗り込む直前追い掛けてきた。無事乗れるか、捕まってしまうのか?…最大のスリルの見せ場もそれなりにハラハラはさせるが、何だかちとドタバタチープに感じる。
実際は生きるか死ぬかの瀬戸際だったろうが、演出やストーリー展開でそれを活かせなかった。
作品の印象にもその迷いが見える。即ち、
窮地に陥ったカップルのラブストーリーにしたいのか、
エンタメチックな脱出サスペンスにしたいのか、
恐るべき拷問施設の実態に迫る社会派ドラマにしたいのか、
何か決定打に欠けた。これらが巧みに合わさったら傑作になったろうに…。
エマ・ワトソンは熱演。魔法学校を卒業して完全に大人の女性。ダニエル・ブリュールとのラブシーンもあり。
そんな大人になったエマが魅せた頑張りも虚しく、何だか残念。
