愚行録 : 特集
ベネチア国際映画祭での上映を果たした《高満足・良質エンターテインメント》
受け止められるか。仕掛けられた3度の衝撃──必ずあなたを絶句させます。
妻夫木聡、満島ひかりほか実力派俳優共演で描かれ、第73回ベネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門で正式上映されたミステリー・エンターテインメント「愚行録」が、2月18日より全国公開。見終わった後に高い満足度が得られるエンターテインメントを求めている人にすすめたい、次なる1本だ。
迷宮入りした一家惨殺事件──再び調査する週刊誌記者が迫る真相とは?
仕掛けられた3つのドンデン返しに、映画.comは「あ然」「驚がく」「絶句」
日本中を震え上がらせた一家惨殺事件から1年、週刊誌の記者・田中(妻夫木聡)は、迷宮入りした事件の真相に迫ろうと改めて取材を開始するが、関係者のインタビューから浮かび上がってきたのは、エリートの夫と美しい妻、そして可愛い娘という理想的と思われていた一家の、想像とはかけ離れた実像だった……。
すっきりとしない嫌な後味を残すミステリー=「イヤミス」という言葉が生まれる前に、ミステリー界に登場した問題作で、直木賞候補にも選ばれた貫井徳郎の同名小説を原作に、今、衝撃のミステリー・エンターテインメントが誕生した。見る者の予想を覆すドンデン返しがたたみ掛けてくる。その全貌をいち早く目撃した映画.comも、仕掛けられた衝撃に、ただ言葉を失うしかなかったのだ。
「この映画はただものではない……」と、開始早々からその思いが湧く。主人公・田中が座席を譲るよう中年男から注意を受けると、立ち上がるも……。
田中が訪れたのは、留置所。妹の光子(満島ひかり)が自らの子を育児放棄し、逮捕されていたのだ。あたりを満たす不穏な空気……。
田中は、1年経っても捜査が進展しない一家惨殺事件を「調べ直したい」と上司に執ように申し出る。関係者に会い、証言を集めていく取材が開始される。
殺された一家の夫や妻を知る者が語る回想シーンから、「ああ……こんな人、いるいる」とうなずく「ひどいヤツ」が浮かび上がってきて、嫌な気持ちになっていく。すると、突然、予期しないタイミングでやってきた衝撃! 「え?」とあ然とするしかなかった。
そうか、そういう話だったのか……。予想外の展開に見方を軌道修正し、誰の話が真実なのか、そしてなぜ一家は殺されたのかと物語に没入していく。するとまた、もう一度来た。心に深くえぐり込んでくるインパクト。自分がうかつすぎた……と驚くしかない。
「これ以上の衝撃はもうないだろう」とタカをくくっていたが、それは大間違いだった。衝撃の余韻も覚めないうちに、さらなる衝撃が続く。予想できなかった……と、ただ絶句するだけ。
なんと言っていいのか分からない。エンドロールを見つめながら、あの話はどういう意味だったのか、あの人物とこの人物のつながりはどうだったのかと、物語の情報を整理しようと頭が一気にフル稼働する。この気持ちを共有したい、疑問点を話し合いたい──そう、「誰かと話し合いたくなる」作品なのだ。
登場人物「全員、愚か者」──きっとあなたの周りにもいる、こんな「愚行者」たち
日本映画界を代表する実力派結集で描く「本性を現しているのは誰だ?」
本作が見る者を複雑な気持ちにさせるのが、6人の関係者たちだ。何らかの形で事件とつながった彼らのエピソードからは、見栄や嫉妬、駆け引きなど、誰もが持っているだろう「悪意」が浮かび上がってくる。彼らの愚かな行いは、見る者にも突きつけられ、自身の生き方を意識せざるを得ないものなのだ。もしかしたら自分も当てはまるかもしれない、「こんな人いるいる!」という愚か者たち。誰が本性を現しているのかに注目してほしい。
整った容姿、エリートコースに乗った仕事、美しい妻子と、理想的な人生を手に入れながらも、目的のためには手段を選ばない超合理主義者。学生時代は、就職のためのコネを持っているかどうかで付き合う相手を判断していたほど。
田向の妻・友季恵の大学時代の同期生。ハーブ専門カフェを経営して成功を収め、鼻高々。結婚して家庭を持っている友人たちへの羨望が言葉の端から感じ取れる。
大学時代に田向の恋人だった女性で、今は結婚して一児をもうけている主婦。田向の理解しがたい利己主義にも一貫性があり、彼は優秀な人物だったのだと擁護する。
夫とともに惨殺された田向の妻。美しい容姿と人柄の良さで学生時代は高い人気を誇っていたが、それはあくまでも表向きの話だったのだろうか。
淳子の学生時代の恋人。淳子の嫉妬心や負けん気の強さを語りつつ、友季恵の美貌と人柄の良さに思いをめぐらし、「なぜあんなに完璧な人が殺されなければならなかったのか、理解できない」と漏らす。
田向の死を悼む、会社の同期で親友。合コンで田向が気に入った女性と関係を持ちながらも、「面倒になった」と聞くや、上手く破局できるように悪評作りをはかるなどしていた。
田中の取材行為と並行して描かれるのが、育児放棄の疑いで逮捕されている妹・光子の様子。彼女もまた「愚か者」のひとりなのだろうか?
良質な「クオリティ」と「娯楽性」が導く、見終わった後の「高い満足度」
ここに挙げる作品を評価するユーザーならば、彼らの「愚行」を見てほしい
高い作品力と、良質な娯楽性で、見終わった後に「見てよかった」と高い満足度を感じさせる「高満足・良質エンターテインメント」が、近年の日本映画でも連続して登場し、好評を博している。
ミステリー、サスペンス作品では、イヤミスの巨匠・湊かなえ原作の「告白」や、芥川賞作家の吉田修一が原作のみならず共同脚本を手掛けた「悪人」、ベストセラー・ノンフィクションを映画化した「凶悪」、「悪人」と同じ原作者&監督タッグによる「怒り」が、その好例だろう。また、ヒューマン・ドラマでは、「桐島、部活やめるってよ」でも知られる朝井リョウの直木賞小説を、若手実力派俳優の出演で映画化した「何者」、吉田秋生の人気コミックの映画化で、人気女優の共演作「海街diary」も高い評価を集めた。
本作「愚行録」もまた、直木賞候補にもなった衝撃のミステリー小説を映画化した作品。“ミステリー文学界の魔術師”の異名を持つ貫井徳郎が、一家惨殺事件の証言を通して描いた「人間の愚かさ」が、「戦場のピアニスト」のオスカー監督、ロマン・ポランスキーらを輩出したポーランド国立映画大学で演出を学び、本作で長編監督デビューを果たした石川慶によって映像化されている。脚本を、「松ヶ根乱射事件」「マイ・バック・ページ」「聖の青春」を手掛けた向井康介が担当。ポーランド出身で映画賞にも輝いているピオトル・ニエミイスキが撮影監督を務め、従来の日本映画とは異なる映像の質を実現した。
上記に挙げた作品群と同じように、作品力と娯楽性が両立し、良作を求める映画ファンはもちろん、イベント感あるエンターテインメントに期待するユーザー層も楽しめる注目の1作だ。