「重々しく暗く、誰もがしていることのようで、何も解決されない」愚行録 R41さんの映画レビュー(感想・評価)
重々しく暗く、誰もがしていることのようで、何も解決されない
冒頭からひどく憂鬱さが漂う。バスでの些細な出来事とその愚行がある種の「日常」を描いている。
主人公妻夫木君演じる田中には妹がいて、彼女が育児放棄したことで逮捕収監されていることが伝えられる。
彼は週刊誌の記者で、1年前に起きた一家殺人事件の真相を追っている。
彼には潜在して気になる点があるようで、誰にも気に留められなくなったこの事件を追いたいと自ら志願した。
妹は収監先の精神分析医に質問を受けながらそれに答えている。
ストーリーはこの兄妹の視点から「真実」が暴き出されてゆく。
被害者の人となりを探るため、田中は周囲から取材し始める。殺害された「田向」
会社での彼を知る同僚に酒を飲ませ、思い出などを語らせる。どこにでもある「愚行」
当人たちは面白おかしく話すが、クソのような行為だと思う。
次に宮村という学生時代の同級生から、殺された田向の妻、旧姓「夏原」について聞き取りを行う。
こうして次第に人間関係が明らかになってゆく。
同時に妹が精神分析医に家族のことなどを話している。
田中は、宮村への二度目の訪問時に、妹のことをバカにしたように話す宮村に対し、瞬間的に殺意を抱いた。
しかしそれは全くのお門違いで、しかし彼にはその衝動的なことでしか動機は存在しない。
小沢の犯行に見せかけるあたりは、とても逆上したとは思えないほど冷酷だ。
父の虐待 父からの性暴力 妹を守るため… そう思わせておきながら、実は兄妹同士の恋愛だったというのがこの物語の大どんでん返しだ。
田中は何度も鈍器で宮村を殴っていることから、その感情の激しさと異常性を知ることができる。
恋愛関係でもあった妹が、大学で、仲間たちによって回されていたのだ。
警察が犯人を特定できないのは、捜査線上にはないことだからだ。
彼だけが行き着いた真実だが、彼もまた事件の真相にはたどり着くことはない。
妹の光子は、兄との秘密をかたくなに守っているようだが、いろいろなことを精神分析医にしゃべる。
しかし、「誰と話してるの?」そう言って部屋に戻ってきた医師に、彼女は真実を話していないことから、この事件は迷宮化すると考えられる。
橘弁護士も、チヒロが誰の子かを知ったとしても、真相にはたどり着かない。
「日常」では、くだらない些細な愚行が蔓延り、会社のあの男たちがしているお遊びも今後も続く。
この作品の面白い作りは、記者の兄が1年前の殺人事件を追いながら、そこに登場してしまった妹の存在を知ってしまうところだ。しかし、田中は妹から何も聞かされていないので、結局誰が一家を刺殺したのかという真実には誰もたどり着けないのだ。
これは最後に「田中、お前の事件だろう?」と先輩に叱責されながら、新聞を机にたたきつけて「わかってます」というシーンでよくわかる。
田中は事件を追いながら妹の存在を知り、そこでのことに逆上しただけだ。
事件は頓珍漢な方向へ向かいながら迷宮化。チヒロが死んだということを聞かされて笑う光子の精神状態が普通ではないことは明らかだが、真実が明らかになったところで光子の救いは兄によるしかない。
妹の真実を聞かされ八つ当たりするように起こした殺人も、頓珍漢な方へと向いている。
内部生なる軍団も変わることなく、結局はじかれた夏原がつかんだのは田向だ。
どこにも救いのないこの作品の最後に、バスで妊婦に席を譲る田中の映像がある。
ごく自然な日常の優しいシーンだ。
この些細な行動が、愚行からの最初の一歩だと思いたい。
コメントありがとうございます。
愚行録・・・題名の愚行。
若気の至り・・・そうですね、分かっていても
行動してしまう事(人)があります。
理性より「欲望」を優先したとも私には思えるのです。
R41さんが妻夫木聡と満島ひかり兄弟のことを、
恋愛と書かれてるのをみて、いいなあと思いました。
兄と妹に心から愛し合うことも、あると思います。
タブーですけれど、好きになることはあると思います。
美しい表現で、2人を愛おしく思いました。