マネーモンスター : 映画評論・批評
2016年5月31日更新
2016年6月10日よりTOHOシネマズ日本橋ほかにてロードショー
ハリウッド屈指の女優監督は、劇場映画4作目にして新たな鉱脈を掘り当てた
“劇場型犯罪”を扱った映画はかつて数多く作られてきた。銀行に籠城した犯人を野次馬が取り囲む「狼たちの午後」(75)、強盗団が自分らと同じつなぎを人質にも着せて捜査側の視覚を混乱させる「インサイド・マン」(06)、強盗の濡れ衣を着せられた元刑事が高層ホテルの窓際から投身自殺を図ろうとする「崖っぷちの男」(12)etc。2014年の映画化されていない優れた脚本の“ブラックリスト”に載った本作は、先行作品に影響を受けつつ、予想外の展開を次々積み重ねて、終始、観客の集中力を途切れさせない。
MCが巧みな話芸で視聴者に投資術を伝授する人気財テク番組を、ある日、番組が流した情報を鵜呑みにして大損した一般投資家がジャック。犯人はMCの体に起爆装置を巻き付け、暴落した株の全損失額、8億ドルを要求。さらに、事の一部始終を生放送しろと脅迫してくる。こうして、コントロール室のディレクターとスタジオのMCがイヤホンを通して命がけのリアリティショーを展開する様子を、全世界の投資家たちが固唾を飲んでウォッチ。と、ここまでは想定の範囲内だ。
晴れて映画化を見た脚本が勢いを増すのはここから。スタジオを飛び出したMCと犯人をカメラマンが背負いカメラで追いかける一方で、株暴落の裏に隠された真実が、原因と思われていたPCソフトを開発した韓国人プログラマーや、アイスランドのハッカー集団によって暴かれていく。絶妙な舞台転換とオンラインで繋がった人脈が話を躍動させる傍らで、決死のライブ中継を続けるMCとディレクターが互いに感謝の気持ちを確認し合う場面の清々しさはどうだろう!?ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツが脚本にはないスターパワーを書き加える瞬間だ。
リーマンショックを例に挙げるまでもなく、被害者は泣き寝入るしかない金融クライシスのジレンマをエンタテインメントへと昇華させたのは、偶然か否か、「インサイド・マン」で交渉役の弁護士を演じたジョディ・フォスター。あの時、犯罪現場の構図をスパイク・リーから学んだはずの監督は、今回、スタジオ内シーンでTVカメラと映画のカメラを意図的に使い分ける等、このジャンルに斬新な視点を持ち込むことに成功している。ハリウッド屈指の女優監督は、劇場映画4作目にして新たな鉱脈を掘り当てたようだ。
(清藤秀人)