「「ポスト・トゥルース(脱真実)」時代のカルト映画」美しい星 nankichiさんの映画レビュー(感想・評価)
「ポスト・トゥルース(脱真実)」時代のカルト映画
吉田大八監督『美しい星』、変なバランスの映画で最高だった。
(レイトショー一人きりで鑑賞。完全貸切でリリーフランキーのメッセージ兼放送事故の有様のポーズに合わせたカメラワークわカットの切り替えに声出して笑ったり、UFOに出会ったような変な空間におちいったような気分になれたりして、没入出来てなかなか良かった。)
以下、若干ネタバレ(というのだろうか、ストーリーラインに触れる感じ)になります。
家族がオカルトやマルチ商法にハマったら、普通は不幸やいさかいの元になりそうなものなのに、おかしな行動は特に咎められることはない。
それどこか、最終的にはそれによりクライマックスに向けて家族が美しくまとまっていったりする。
劇中、ある一つの真実を解き明かすような見方をする人には、訳がわからないだろう。「◯星人」ってなんで?「ボタン」の効果は?全ては曖昧なままだ。
何星人視点でのリアルかがグラグラしたりする。地球人でもあり、太陽系の別の星の人でもある3人は、個人の中でさえ、視点がせめぎあっているかもしれない。
最も冷静そうな「地球人」であり続ける母でさえ、すぐにわかるようなマルチに、あっさりと入り込んでいく。
信じるものによって「リアル」が変わる世界。
僕らは皆、それぞれに、生きる意味(使命)に出会ったと感じたい。
そして、出会ったものたちはそれが「地球人」の世界ではフェイクだという情報を明かされても、その使命に準じていく。
"フェイクニュース"、"ポスト・トゥルース"の時代らしい展開。
"彼ら"の真実は、"彼ら"にとっては真実で、反証しても無駄(場合によっては我らの真実でもある)。
本当のことよりも、本当と思いたいこと。真実の先には脱・真実の世界が広がっていて、真実を脱した者(異星人)同士は分かり合える。
とても現代的な語り口の作品だ。
橋本愛のUFOを呼ぶシーンや美しさが覚醒するとこなどは映像として楽しめた。橋本愛の超越的な美しさそのものもすごいのだけど。
そして人や街を綺麗に撮るぞと決めたらバッチリ綺麗に撮れるライティング含めた撮影技術も圧巻。これまたすごい。
あと、全体的に音楽や音響も素晴らしかった。
『桐島〜』ほどわかりやすく共感できる作品ではないけれど、吉田大八監督作品にハズレはなさそうと改めて思わされる映画だった。
ライムスター宇多丸さんの映画評いう通り、「スイッチ」の前後のくだりだけ、なんかボヤッとするなぁって感じだったけど、現代劇とするのには仕方ないのかな…。やむを得ないバランスなのかもしれない。
そして、今日、6/15は、共謀罪法案が可決された日でもある。
僕らは、もはや「地球人」的な正しさやそのロジックの持つ欺瞞にうんざりしていて、それが無差別のテロやトランプ政権などに繋がっているのかもしれない。
イギリスやアメリカやイスラム国だけでなく、日本においても同じで、建て前的な正しさに飽き飽きして下品な剥き出しの利己的プライドにすがろうとしている。新しい仕組みのネオナチみたいなものだ。新聞やテレビなどにも空気によるゲッペルス化を強いている。
でもさすがに下品すぎて、再びうんざりしている。
うんざりしても、よりうんざりするような新しいルールが決まってしまう。
そんなときに、例えば見目麗しい存在から説得力のある語り口で、少しの超常現象(たまたまの符合でも可)と共にもたらされるメッセージをいいタイミングで受けてしまったら、乗っかってしまう気持ちも分からなくもない。
「地球人に告ぐ、お前たちは○○○だ!」
みたいな言葉は、意外と爽快だし、甘美に響くだろう。そういう点では、とっても僕らの精神は合理的だ。
「あの人(達)は、なんであんなことをしたのだろう?」みたいな事を考えさせられる、2017年らしいカルト映画になりうる強烈な怪作でした。
最高に楽しみました!
もう一度ストーリーを理解したうえで、改めて観かえしたいなぁと思います。