「全てが奇跡」天国からの奇跡 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
全てが奇跡
にわかには信じ難い。だからと言って否定するのも如何なものか。時には説明の付かぬ出来事だってある。
これは、ある家族に起きた実話に基づく“奇跡”の物語。
テキサスの田舎町に暮らすビーム家。両親と3姉妹。敬虔なクリスチャン。
父親は動物病院を開業したばかりで、新たなスタートを切った矢先…
次女アナが突然腹痛を訴える。腹部が膨張。幾つかの病院で診て貰うも、原因不明。
緊急手術。手術をしてやっと分かった深刻な病気。
機能性胃腸障害。胃や腸が食べたものを消化出来ないという病気だった。
アナは絶えず襲う痛みに苦しみ、母クリスティもそんな愛娘の姿に苦しむ…。
見ていたら自分の事を思い出した。
ちょうど6年前、私も原因不明の病気に襲われた。
腹痛と気持ち悪さ。
前日会社の飲み会があったので二日酔いかなと最初は思ったが、二日酔いだったら吐けばだいぶ楽になるが、吐いても吐いても一向に良くならない。
それが時折強まったり治まったりじゃなく、24時間ずっと続く。なのでほとんど寝れもしなかった。
近くのクリニックにまず行き、そこから救急車を呼んで大きな病院へ。
レントゲンなどで検査。でもレントゲンでもはっきりした事は分からず、実際にお腹を切ってみないと分からない。
緊急搬送、緊急入院、緊急手術。
私は鼻チューブやら点滴やら麻酔やらまでしか覚えていないが、弟は医師から最悪の事態や人口肛門などの覚悟を…と言われたとか。後で聞いた所によると。
手術は無事終了。医師から聞いた説明は…
胃の壊死。何らかの原因で胃が壊死を起こし、消化機能不全に。胃の膨張で痛みや気持ち悪さ、食べても飲んでも戻してしまう。
一命は取り留めたものの、胃は全摘。
発症から手術までの2日半。人生の中で最も死を感じました…。
劇中でアナが腹痛に苦しんだり、鼻チューブでお腹の中の不純物を吸い上げたり、緊急手術など、あれやこれや似た事を思い出して…。
アナの苦しみはよく分かるつもり。しかもまだあんな小さな身体で。
そりゃあ何もかも嫌になる。死すら意識する。
何かにすがりたくなる。
一方の母クリスティは何かに信じられなくなり、問う。
何故娘にこんな仕打ちを…?
周囲の心無い言葉。娘の病はあなたがお祈りに来なくなったから。
隣人を愛しなさいの教えなのに、こんなに陰湿なの…?
信仰心ある者も無い者も人によりけりだろうけど。
ボストンの名医を紹介される。
予約が埋まってた身だが、診てくれる事に。
しかしその名医をしても治療法は無い。薬で痛みを和らげるだけ。
そして、家族と過ごす。
クリスティとアナだけボストンの病院に。そこへお金が厳しいのにも関わらず、父と姉妹がサプライズ見舞い。
この時クリスティとアナは心身共に疲労しており、何よりの薬に。このシーンはジ~ンとしたなぁ…。
家に帰れる事に。が、良くなった訳でも治った訳でもない。
これから一生、この病と生きていかなければならない。
そう思うと希望に満ち溢れていた人生の道が突然暗く遮られたかのように。
私も術後の後遺症みたいな症状に今も悩まされている。
ダンピング症候群。胃を切除した人に起きる症状で、食べたものがダイレクトに腸へ。その際たまに腸が消化に追い付かず、痙攣を起こす。その痙攣が身体中にも伝わり、めまい~痙攣・発作~発汗~激しい動悸。それが2~3分続く。
主に夜寝てる時や寝付いた頃に多い。ごくたまに昼間や起きてる時にも。いつぞやなんか外を歩いている時に突然。
起こる頻度も不規則で、2~3ヵ月起きない時もあれば、一ヶ月に集中して3~4回とか。
本当にヤだ。時々寝るのが怖くなる。
私の場合は病気じゃなく症状なので、治りようがない。一時薬も貰っていたが、飲んだって飲まなくたって同じ。もう一生もん。
奇跡でも起きない限り。
私には起きないが、アナには起きたのだ…。
家に戻っても容態は変わらず。
そんなある日、姉に誘われ元気な時によく登った木に久しぶりに登る事に。
家の近くの何処か神々しさすらある大木。
登ったのも束の間、枝が折れ、アナは空洞になっている木の中へ頭から落ちてしまう…!
レスキューが駆け付け、地元ニュースで取り上げられるほど場は騒然。
家族は心ここに非ず。クリスティは必死に祈るのみ。
やがて救助され、病院へ搬送。担当医が驚くべき事を。
ほとんど怪我もない。まるで奇跡。
だが、信じられぬ奇跡はその後起きた。
アナの体調が日に日に良くなる。腹部の膨張も治まり…。
検査をしてみると、何と! アナを苦しめていたあの病が消えたという…!
本当か…? 何が起きたというのだ…?
少なからず医学的説明もつかない事はないらしい。
頭から落ちた衝撃で身体中の中枢神経が刺激。例えるならコンピュータが再起動するかのように。
“自然寛解”と言って、治療せず病が自然と治癒する事らしいが、ほとんど無いに等しい稀なケース。それこそ奇跡のような。
さらにアナは落ちた時、不思議な体験をした。
大木の中で、横たわる自分を見る自分。
やがて不思議だが美しい世界へ。
そのままその世界へ行きたいと思った時、“声”を聞いた。
戻りなさい。
そしてアナは意識を取り戻したという…。
幽体離脱か…?
その世界は…?
その“声”は…?
本当にそうなのか…?
疑惑を抱く者も。
分からなくはないが、書き出しで言った通り、ただ単に否定するのも…。
アナが嘘を言っているとは思えない。
幽体離脱した人の証言は少なくはない。そのいずれも何処か似かよっている。
じゃあ、本当に…?
そうだと断言出来ない。あからさまに否定も出来ない。
それを“奇跡”と言うのは容易い。
不思議な体験はともかく、アナや家族の周りで本当の奇跡は起きた。
母娘二人でボストンへ。知人もいない中、たまたま立ち寄った飲食店の店員が親身になってくれた。(自然体のクイーン・ラティファ)
病室で親しくなったガンの少女。その父親。
空港で父親と姉妹が立ち往生している時、力になってくれた職員。
明るい性格で病気と向き合う事を教えてくれた名医。(『コーダ あいのうた』の音楽教師役で好演魅せてくれたエウヘニオ・デルベスが好助演)
そして再確認した家族の絆。(ジェニファー・ガーナー、カイリー・ロジャーズの熱演)
本作は宗教映画の類い。
神や信仰心なども描かれているが、それほど宗教色は濃くなく、人と人のふとした出会い、家族愛が押し出されている。
苦難の時に手を差し伸べてくれる。それこそが奇跡ではなかろうか。
劇中の印象的な台詞。
奇跡など無いと思って生きるか。
全てを奇跡と思って生きるか。
私もいつか、後者を思い、信じるようになりたい。