劇場公開日 2017年7月22日

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ウィッチ : 映画評論・批評

2017年7月18日更新

2017年7月22日より新宿武蔵野館ほかにてロードショー

17世紀の魔女伝説をプリミティブかつ荘厳に映像化した美少女の受難劇

サンダンス映画祭で監督賞、インディペンデント・スピリット賞で新人作品賞と新人脚本賞を受賞。それ以外にも欧米で幾多の賞に輝いたロバート・エガース監督のデビュー作は、17世紀の米国ニューイングランドにおける言語や風俗を再現した魔女ホラーだ。予算もスケジュールも限られたインディペンデント映画で、そうした細部へのこだわりを実現した作り手の努力と情熱がどれほどのものかはプレス資料のプロダクションノートに記されているが、観客はわざわざそれに目を通す必要もない。冒頭間もなくスクリーンに出現する荒々しい原野や鬱蒼とした森の光景を目の当たりにすれば、たちまち濃密な妖しさが立ちこめる映像世界に引き込まれてしまうからだ。

清教徒のコミュニティを追放された親子7人の家族が自給自足の生活を始めるが、魔女が棲んでいるとされる森のそばに移り住んだために破滅的な運命をたどっていくという物語。長女が「いないいないばぁ」をしてあやしている最中に赤ん坊が忽然と消え失せるシーンを皮切りに、農作物の凶作、狩猟中の事故、長男の失踪といった厄災が容赦なく一家に降りかかる。

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これは照明や視覚効果を駆使して人工的な怪奇ゴシックの様式美を強調した他のホラーとは、明らかに異質な映画である。ただならぬ不穏さが渦巻く森の描写や、ロウソクの灯りで撮られた室内場面にはプリミティブで厳粛な迫力がみなぎり、F・W・ムルナウなどの古典のスピリットが憑依したかのよう。唐突なタイミングで映し出される魔女の暗躍ぶり、悪魔の手先のごとく幻惑的な動きを連発するウサギや黒ヤギといった動物たち。さらに一家の両親が子供たちよりももろく暗黒面に堕ち、見るも無惨な末路をたどっていく様にも驚かされる。

そして本作は、ひとりの美しき少女の壮絶な受難劇でもある。家族からヒステリックな魔女疑惑をかけられる長女トマシン役は、これがM・ナイト・シャマラン監督作品「スプリット」の主演へとつながる出世作となったアニヤ・テイラー=ジョイ。思春期特有の感情の揺らぎを表現するだけでなく、仰々しい衣装をまとった肉体から無垢で危ういアンバランスな色気を匂わせる傑出した存在感は、まさしくナイーブな信仰心と魔物の誘惑との狭間でもがき苦しむヒロインにふさわしい。その“悶え”が頂点に達するラスト・シーンの怪異は現実か、はたまた淫らな幻覚か。この風格のようなものさえ湛えた魔女ホラーの魅惑に抗えなかった筆者は、もちろんその答えなど持ち合わせていない。

高橋諭治

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