「本作が空前の大ヒットになったのは、本作のメッセージが黒人にも白人にも、他の人種にも届いたからだ」ブラックパンサー あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
本作が空前の大ヒットになったのは、本作のメッセージが黒人にも白人にも、他の人種にも届いたからだ
原作はマーベルコミック
アメリカ初の黒人が主人公のスーパーヒーローのコミック
1966年から掲載開始
日本で「巨人の星」が連載開始された年と同じだから恐ろしく昔からあるコンテンツ
今も断続的に掲載されているという
いや「ウルトラマン」も1966年放映開始だから、こちらの方が比較に相応しいのかも知れない
日本人の男の子達が大昔から連綿とウルトラマンに熱狂してきたように、黒人の男の子達はブラックパンサーをスーパーヒーローとして憧れ続けてきたということだ
ブラックパンサー
同名のブラック・パンサー党の名前がどうしても思い出される
1965年、映画にもなったマルコムX暗殺事件後にカルフォルニアで活動を開始し、1967年に結党された黒人の政治組織のこと
コミックからこの名前を付けたというから、コミックはブラックパンサー党とは何の関係もないし、映画の本作も全く無関係だ
しかし本作の本質を考えるためには、このブラックパンサー党のことを良く知らなければならないと思う
ブラックパンサー党はマルコムXから暴力主義的な黒人解放闘争を受け継いで、急進的な時に暴力的な活動を展開した
つまり日本風に言えば過激派
アフロヘアーは彼らから広まったヘアスタイルという
黒い革のジャケットとズボン、黒ベレー帽スタイルが有名
ショットガンで武装すらしていたのだから、もうほとんど軍隊だ
彼らのスローガンは「ブラック・パワー」
それは黒人差別への暴力による抵抗を意味する
だからそのシンボルマークは突き上げた黒い拳だ
黒人への暴力的な差別には暴力で対抗すべしという図案だ
さらにその図案は右手ではなく左手の拳であることにも留意すべき
そこに社会主義闘争であるとのニュアンスが込められている
黒人社会は米国内部の第三世界、植民地である
よって世界の被抑圧民族と連帯し、帝国主義と闘争するのだということ
実際、キューバ、ベトコン、北朝鮮などへの連帯を呼びかけていた
すなわち共産主義や毛沢東、チェ・ゲバラなどの強い影響を受けている組織でもあった
それまで黒人の公民権運動は、黒人と白人との統一的な運動であり、非暴力で平和的なものだった
しかしブラックパンサー党はこのような暴力での抵抗を肯定し、黒人と白人の分離主義を指向した
つまり白人は敵だという思想だった
結局、ブラックパンサー党は、黒人社会の広い支持を得られなかった
次第に分裂し1970年代にはほぼ消滅してしまった
それがブラックパンサー党だ
では、なぜ21世紀の2018年にブラックパンサーの映画が撮られるのか?
マーベルコミックの映画が人気だから?
もちろんそうだ
しかしやはりBLM運動がきっかけであることは間違いないと思う
もともとブラックパンサー党は、白人警察官の暴力から黒人街の人々を守る活動からスタートした政治運動であったのだ
つまり今のBLM運動の源流とも言えるのだ
だからこのブラックパンサー党とコミックは無関係であっても、21世紀の今、コミックのブラックパンサーを映画にするとき、どうしても意味を持ってしまうのだ
ブラックパンサーの名前、その強化スーツはブラックパンサー党のユニフォームを思い出させるのだ
本作の内容は一切、BLM には関係がない
しかしメッセージは確実にあるのだ
劇中に、こんな台詞がある
もう我慢できません
目立つものは殺され
街はクスリと銃にあふれ
不当逮捕も多い
弱者が虐げられています
抗うすべがないからです
だかヴィブラニウムがあれば別だ
ワカンダなら世界を正しく導ける
お前らは幸せそうだな
世界では大勢が抑圧されている
ワカンダの資源で彼らを解放できる
その資源とは?
ヴィブラニウムの武器だ
かって黒人が抑圧者に対し立ち上がり
だが武器や資金がなく失敗した時
ワカンダは何を?
侵略者の得意技「武力行使」で反撃だ
まさにブラックパンサー党の主張そのものだ
ヴィブラニウムを暴力、ワカンダを黒人社会と読み替えするだけだ
それを主人公の黒人の王と血のつながった王族の人間がいうのだ
しかし彼は悪役であり、最終的に主人公に倒されるのだ
そしてラストシーンで主人公はこう演説する
影から見守るのはもうやめます
これ以上傍観できない
我々から率先し
地球に生きる仲間を家族として大切にします
もしこのまま対立の風潮が続けば
人類は存続も危うい
実際は違いより共通点のほうが多いのです
危機に瀕した時賢者は橋をかけ、愚か者は壁を作るのです
某前大統領をディスっている?
そのニュアンスは確かに少しある
しかし本作が本当に言いたいメッセージは
そんな小さなことではない
私達はそれを受け取らなければならない
それはBLM への連帯の呼びかけであり、傍観せず行動すべきだということ
しかし米国を分断する過激な分離主義はちがう
ブラックパンサー党のやり方は間違っている
白人とも、どの人種とも平和的に理性的に融和していくことだと主張しているのだ
ラストシーンで「農業国が・・・?」と発言するような無理解な人々はまだまだいる
しかし、本当の力をみせたなら協力的になってくれるはず
本当の力とは、映画ではワカンダ国の科学力、財力、ヴィブラニウムの資源力だ
21世紀の黒人社会にとって本当の力とは、平和的に非暴力で、人種を問わず融和していく意志の力だと言っている
自分にはそのようにしか聞こえなかった
本作が空前の大ヒットになったのは、そのメッセージが黒人にも白人にも、他の人種にも届いたからだと思う
ぜひエディ・マーフィーの1988年の作品「星の王子 ニューヨークへ行く」を合わせてご覧下さい
ストーリーが良く似ています
それもコミックからインスパイアされたのだと思います
そして2021年の今年そのパート2が、33年の時を超えてAmazon Prime Video限定で公開されています
テーマは本作と全く同じ
というか本作をうけて、その理念をより明確にしています
ブラックパワーとは暴力じゃない、歌とかダンスとか人々をハッピーにする力だと主張している映画です
ぜひそれもご覧下さい名作です
ところでピンクパンサーという米国映画があります
邦題は「ピンクの豹」
1964年3月に米国で公開されました
マーベルコミックでブラックパンサーが初掲載されたのは1966年10月
もしかしたら、名前の元ネタはそれだったかも知れません
ピンクの豹とブラックパンサー
まさかの親戚だったのかも?