「現実的なヴィランと善人すぎるヒーロー」ブラックパンサー mmさんの映画レビュー(感想・評価)
現実的なヴィランと善人すぎるヒーロー
監督・脚本共に黒人(しかも若い!)であるが、ティ・チャラは白人の理想とする黒人像だなあと思う。
ハリウッド映画にはよく、こういうどこまでもお人よしで優しい顔をした黒人が登場する。
観賞後、監督のデビュー作を見て、「人から求められる作品を創れる」監督だと知る。
この若さでMCUシリーズの一本を監督するのも納得である。
虚構と現実のバランスが良い。
ティ・チャラの善人すぎるところは非現実的であるのに、未だ同じ民族同士で争うアフリカの問題、
世界中に散らばる同胞の現状に心を痛める者が居たり、キルモンガ―の生い立ちも非常に現実的だ。そりゃあんな目に遭えばああなる。
夥しい数の殺戮を繰り返しながら、父親に再会した時には涙を見せるところなど、ありきたりだが良かった。
他にも、ギャップの描き方が上手い。
Civil Warと本作の冒頭ではひたすらに偉大な人物であるかのように描かれたティ・チャカの光と影。
彼が放った「善人は国王に向かない」という台詞は、自らのことを指した伏線だったか。
所謂いかにも死んだ父が息子に言いそうなありきたりな台詞だろうと思っていたら、後できちんと伏線が回収され、見事だと思った。
自分の親だからと肩を持つことはなく、きちんと善悪で物事を判断し、父を拒絶するティ・チャラ。
なるほど本当に善人すぎる。父は息子をよくわかっているのだ。
実は巨大な文明国であるのに、決闘で国王を決定してしまうなど突っ込みどころも多々あるが、それを含めてもよく出来ていると思う。
ラストシーンの会見でワカンダの力を見せつけるところまでは描かず、困ったように笑うティ・チャラで締めるところもすごくいい。
後で知ったが、ラストシーンの順番は複数のバージョンから現行のものになったとのことで、成功していると思う。
エンディングの映像はMCUシリーズで最もかっこよかったのではないだろうか。
創り込まれているが分かりやすい、バランスのとれたいい映画だった。