マイティ・ソー バトルロイヤル : 映画評論・批評
2017年10月31日更新
2017年11月3日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
シリーズ大変貌。噛み合わないチームが怒涛の化学変化を巻き起こす!
思えば、“ソー”シリーズは常に変化を遂げてきた。シェイクスピア劇のように格調高い一作目、そしてスペクタクルな戦闘シーンを伴う二作目。でもこれらはまだ序の口だった。まさか今回の三作目で、あらゆるノリとテンションが大化けしようとは誰が予想しただろう。
だって、やること成すこと、凄いのだ。冒頭からレッド・ツェッペリンの「移民の歌」に乗せてソー(クリス・ヘムズワース)が大立ち回りを披露したかと思えば、今度は故郷アスガルド、地球を経由し、それから弾き飛ばされた惑星にて、旧友(!)と再会。その上、故郷の民を救うべく、すんごい扮装をした死の女神(ケイト・ブランシェット)と対決しなくてはならない。まさに2時間10分を飛び回る、超過密スケジュール。それでいて、一瞬たりとも無駄のない疾風怒濤のエンタテインメントになっているのだから驚かされる。全ては宇宙の果てに集いし“即席カルテット”の成せるワザか。いやそれにも増して、本作を破格のテンションで紡ぎ出したまだ無名の俊英監督こそを、我々は大いに讃えるべきなのかもしれない。
彼の名はタイカ・ワイティティ。ニュージーランド生まれで、独特なユーモアのセンスを秘めた逸材だ。マーヴェルはいつもこういった人選で肝っ玉のデカさを見せ付ける。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」におけるジェームズ・ガン監督の起用と同じく、今回も思い切りリスクを取ることで、予定調和に陥らない爆発的な化学変化に賭けてみせたのだ。
コメディ俳優でもあるワイティティ監督の演出は、当然ながら絶妙な「間」に満ちている。序盤からソーの内面をユニークにぶちまけ、矢継ぎ早に起こる奇想天外な状況を通してこの頑固者のキャラを様々な色合いへ染め上げていく。さらにロキ(トム・ヒドルストン)、超人ハルク(マーク・ラファロ)、初登場となる女戦士ヴァルキリー(テッサ・トンプソン)との“全く噛み合わない”応酬にも笑いが満載。そんな4人がいつしか、アベンジャーズとはまた違う絆で結ばれていくのも大きな見どころだ。
過去作を史劇としてセルフパロディする余裕すら見せる本作。この布陣、この采配。おそらくマーベル作品で一番のお気に入りに認定する人も多いはず。それほど人を惹きつける強烈な磁場がある。なにやら新アベンジャーズに向けての重要なジョイントにもあたるらしく、破格の楽しさと興奮に満ちた布石を、是非とも見逃さないでほしい。
(牛津厚信)