「甘過ぎたお子様ランチ」BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
甘過ぎたお子様ランチ
その昔、スピルバーグはお子様ランチしか作れないと比喩された頃があった。
それ故大人向けの作品を作ろうも、まるでピーターパンが大人になろうと必死になってもがき、かえって裏目に出、スランプに陥った時期があったが、今や円熟の域に達した巨匠にもそんな苦労があった事を窺い知れるエピソード。
巨匠久々の本格ファンタジーと話題の本作。
製作はディズニー、原作はロアルド・ダールと最高のファンタジーを作れる材料が揃っている。
…が、かつてのお子様ランチは大人も味わえるものだったが、今回のそれは…。
悪くはない作品だとは思う。
スピルバーグの童心と良心に溢れた好編。
VFXは素晴らしいし、映像も美術も音楽もファンタジックな世界を見事に創り上げている。
ソフィー役の新人ルビー・バーンヒルの可愛らしさと、巨人=BFGを演じたマーク・ライランスの好演が本作を支えている。(ライランスへのスピルバーグのぞっこんも分かる気がする)
ほっこりしたシーンもあるし、女王陛下への謁見シーンはユーモアあっていい。
夢の大切さ、立ち向かう勇気、立場も種族も超えた友情…などなど普遍的なメッセージもそつなく込められている。
…でも、何て言うか、それだけ。
スピルバーグも可哀想なもんで、我々はそれ以上の何かを見せてくれる高いハードルを勝手に期待してしまう。
それが期待外れだと、やっぱスピルバーグは昔が良かったといつだって比較される。(宮崎駿然り)
スピルバーグだって人間なのだから時には不振に終わる作品だって勿論あるが、改めて振り返ると、そのほとんどが平均水準以上のやっぱり凄いヒットメーカー。
もう一度言うが、作品は好編。
それは分かっているが、それ以上の何かを見せてくれる作品だったかと言うと、返答に困る。
全体的に単調。
特にハラハラやメリハリも無く穏やかに続く。
最後に何かこう一捻りあるのかと思ったらそれも特に無く、まるで夢心地のまま終了。
個人的に、序盤がどうもタルかった。
巨人は人間たちに存在を知られてない設定の筈なのに、あっさりソフィーに姿を見られてしまう不手際!(まあ、そうでもしないと話が始まらないんだけど…)
頭隠して尻隠さずみたいなBFGの身の隠し方が幾ら何でも雑…。
BFGがソフィーをさらった理由も一応説明されるが、えっ、それだけの理由…?
…などなど、のっけからズッコケてしまった。
後足りなかったのは、他のロアルド・ダール作品に垣間見られる毒気が薄かった事。
BFGが他の巨人から受ける嫌がらせ。これは、孤立や孤独。
そんな悪い巨人の退治方法。これは、武力で押し通す人間の侵略戦争。
毒気もちらほら含まれているが、これが例えばティム・バートンとかだったらもっと巧みに散りばめていたんじゃないかと。
スピルバーグはさながら映画界のお優しの巨人だ。
そんな巨人が久し振りに腕によりをかけたお子様ランチ。
しかし、その味は…
適温に満たされず、原料のスパイス(毒気)が薄れ、客を喜ばせようと甘味が多すぎたようだ。
こういう作品を素直に楽しめない自分を恥じるしかない。
だってつい、巨人が人間をガブリ!…ってシーンを想像してしまったのだから(>_<)