「物語がリフレインしたとき、彼女の涙の意味が切なく迫ってくる!」ぼくは明日、昨日のきみとデートする 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
物語がリフレインしたとき、彼女の涙の意味が切なく迫ってくる!
タイトルの意味は、予告編を見てもさっぱり分かりませんでした。予告編から覗えるのは、ある時間を境に、主人公の隣にいたはずの彼女が突然いなくなってしまうことぐらいです。
それはなぜといいたいところですが、ネタバレになってしまうので一切書けません(^^ゞ
ただ言えることは、何らかの理由から、時間軸の違う二人が出会ってしまったことです。ある条件に沿った時間だけ、恋人ととして出会える関係になれるということ。どうしてそうなったのかという理由は、はっきりと描かれていません。しかし映画のマジックとして、あり得ない世界を設定しつつ、そこから説得力ある展開で純愛を成立させてしまう点では、皆さん『君の名は。』で体験済みと思います。あれとちょっと似ているのですね。
一見あり得ない世界を、こういう世界なんだと力業で描いてしまうと、そのあり得なさが気になって、最後までストーリーに感情移入できなくなるものです。でも、本作のように最後まで丁寧にディテールを細かく丁寧に描いて行くと、だんだんそこで設定された虚構が気にならなくなって、登場人物立ちの感情の動きのほうにどっぷり填ってしまうものです。古い映画で例をあげれば、大林宣彦監督の尾道三部作がそれに当たると思います。
とにかく予告編だけで首を傾げているばかりでは、どんな映画なのか本作では、さっぱり分かりません。結構ヒントを出しているこの文章をお読みになっても、大半の方は、なんじゃろうとよく飲み込めないはずです。しかし、実際に劇場でラストまでご覧になっていただくと、そういうことだったのかとストンとガッテンがいくでしょう。
当初は主人公の視点で描かれていきます。主人公は、京都の美大に在籍する20歳の南山高寿(福士蒼汰)。ある日、彼は電車で大学に行こうとしたところ福寿愛美(小松菜奈)という女性に出会い、瞬く間に心を奪われてしまうのです。
高寿は愛美に声を掛け、一目惚れを告白します。携帯を持たないという愛美から高寿は連絡先を聞き出せずにいました。それでも、明日の再会を愛美から約束されて別れたのでした。その翌日、不思議なことに愛美は、以前から知っていたかのように高寿を見つけ出し、事実上のデート状態に。その後二人は正式に付き合うことになります。
毎日デートを重ねて順調に交際が進み、幸せな日々がいつまでも続くものと考えている高寿。15日目では、早くもふたりが結ばれるという幸せの絶頂を向かえます。ここで、かなり遅めのタイトル・クレジットが表示されます。これは凄く意味深なタイミングでした。翌朝になって愛美から思いも寄らなかった秘密を打ち明けられることに。そこで初めて、この物語のタイトルに隠された意味について、気がつかれることでしょう。そして、いよいよふたりが出会ってからの30日後に向けて、何がに起こっていくか核心が描かれていくのです。
高寿から見て不思議に感じたことは、愛美が突然涙を流すことでした。一目惚れを告白されたときも、初めて手を繋いだときも、初めて呼び捨てで名前を呼び合ったときも、一つ一つが恋人として普通のやり取りを始めたのに過ぎないのに、なぜか愛美は涙を流すのでした。そのことが気になる高寿。でも、その理由を尋ねることができないままデートを重ねていたのです。
その涙の意味は、愛美の視点で、これまでのストーリーがリフレインされたときはっきりします。その涙に込めれた彼女の切なさを強く感じて、留めなく涙があふれ出してしまいました。彼女の視点で見ると、全ての物語の意味がガラリと違って見えてくるのことに。そんな宿命を自覚している愛美の忍耐力の凄さが、切ないのです。その描き方は、よくある病気で死んでいく作品と共通しているところがあり、そこが泣けるツボになっているのですね。
演技面では、福士蒼汰と小松菜奈がストーリーの進行に合わせて、微妙に表情を変えていく繊細な演技を見せてくれることです。
特に小松菜奈は同年代の美少女女優と比べて、抜きんでた美人とは言えないものの『溺れるナイフ』でも本作でも、ヒロインとして抜擢すれば、輝くようなオーラを解き放つ天性の魅力を宿している女優ではないかと思いました。
ところで三木監督は、作品ごとに演出が良くなってきていると思います。
次回作は、河原和音表情をのコミックを実写映画化した、広瀬すず主演の『先生!』。来年秋公開で、とても楽しみになってきました。『心が叫びたがってるんだ。』などの岡田麿里が脚本を担当するだけに感動を生み出すことでしょう。そしてきっと近い将来、『君の名は。』に匹敵するくらいの、大ヒット作品を生み出す予感を本作で感じさせてくれました。
《ひと言》
まるでドラマ『科捜研の女』のように、京都に住んでいる登場人物全てが、京都弁を話さないことには多いに疑問を感じました。このままでは、はんなりした京言葉が、絶滅しそうです!