劇場公開日 2017年9月9日

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「最前線にいるのは、いつも名もなき庶民」ダンケルク とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5最前線にいるのは、いつも名もなき庶民

2022年1月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

怖い

興奮

知的

いきなり戦場に放り込まれる。
空から降ってくる降伏への呼びかけ。
そして突然背後から、空からの銃撃が迫りくる。
やっとの思いで逃げ込んだ先には、自分と同じ立場の40万人の兵士。広々とした空と海。
その場所とて安全ではない。否、同じ立場ではない。さりげなく所属部隊による差別がある。
赤十字の旗を掲げた船でさえ沈没。
そんな中での、生死をかけた行動。
やっと乗りこめた船でさえ…。
海が嫌いになりそうだ。
閉所恐怖症にもなりそうだ。
空が、こんなに美しくも怖いところだったとは。

映画の途中交わされる将校たちの会話。「3万助けられればいいと本部は言っている」と。
見捨てられた? 事実カレーにいた兵士は見捨てられたらしい(Wikiより)。
戦力を、どこでどう使うかによって戦争の勝ち負けが決まって、史実としてみれば、その判断は正しいのかもしれないが、
すでに、砂浜を、海をネズミのように右往左往する兵士にどっぷり感情移入している身にとっては…。

そんな中で再び交わされる会話。
「何が見える?」「祖国が」

ダンケルク・スピリット。
生き延びようとする、きれいごとではすまされない兵士の想い。
そして、危険にさらされながら、助けようと地獄に向かうもの。
あまりにもあっけなく死ぬもの。
引き潮・満ち潮。自然は容赦ない。
あと数十センチ。生死を分かつ。

試写会で鑑賞。普通の映画館で、これだけ映画の中に没入するなら、IMAXだったらどんな体験になるのだろう。

惨敗しての撤退。ひたすら逃げてきた人々に、盲目の老人が言う。「生きていりゃいいんだよ」

日本と違うなあ。
人間魚雷・特攻。本土決戦では竹やりでたたかわせようとした日本。
捕虜となるくらいなら、自爆テロででも、相手を駆逐するのが大和魂と強制した日本。

あなたが生きている、それが一番尊いことだ。
そんな思いを強くした。

☆ ☆ ☆

(蛇足の追記)
チャーチルの戦意高揚に使われたというレビューがあったけれど、
それは終わってからの政府の施策。意味づけ。
渦中にいた人たちは、助かろうという思いと、助けたいという思い、それだけ。
言葉巧みな人(この場合、耳障りの良いことを言う政治家)に騙されてはいけない。

ラストのトミー・アレックス・ピーター、それぞれの表情が、それぞれ印象に残る。

☆ ☆ ☆

(蛇足の追記2)
 確かに、血の描写は激しくないけれどね…。
 溺死しそうな描写とか、一難去ってまた一難。どこから何が来るかわからない。ぬれねずみのような姿…。充分リアリティあると思うが…。
 戦争の実態も知らずに従軍させられた青年兵。
 これは戦争の一場面を取り上げたのだろうが、災害に巻き込まれた人々にも見えて…。
 助かると思っていた手段がダメになってしまった時の失望感。
 希望の見える瞬間。
 心が揺さぶられる。
 でも、やはり災害と違って、戦争は人災。こんな思いは繰り返させたくないのだが。

☆ ☆ ☆

(蛇足の追記3)
CGに頼らず、実写にこだわって制作された本作。
トム・クルーズ様とこだわりの方向性が同じ。
手を組んだらどんな映画になるんだろうと思う。
けれど、組まないだろうなあ。
追い求めるエンタメの方向性は違う。
内向的なノーラン監督と、外交的なトム様。
知的に緻密さに強迫的なノーラン監督と、興奮・エモーションを追い求めるトム様。
ノーラン監督映画でのトム様を見たい気もするけれど。
キングとキングのぶつかり合い。水と油になりそう。
残念。

とみいじょん
CBさんのコメント
2023年5月17日

> あなたが生きている、それが一番尊いことだ。
う〜む。カッコいい

CB