劇場公開日 2017年9月9日

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ダンケルク : インタビュー

2017年9月4日更新
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映画とは“体験”だ──クリストファー・ノーラン監督が“本物”しか撮らない理由

ダークナイト」3部作、「インセプション」「インターステラー」……新作を発表するたびに文字通り世界を驚かせてきたクリストファー・ノーラン監督が、自身初となる実話の映画化に挑戦した。題材に選び取ったのは、第2次世界大戦中の1940年に起こった「ダンケルクの戦い」。フランスの港町ダンケルクでドイツ軍に包囲された英仏連合軍の兵士40万人を救うため、イギリスの輸送船や駆逐艦、民間船までもが動員された救出作戦だ。ノーラン監督自ら「人類史上最大のストーリーの1つ」と語るこのテーマに、どのようにして挑んだのか。来日したノーラン監督に、話を聞いた。(取材・文/編集部)

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フィルム主義で徹底した本物志向、CGは極力使わない。ノーラン監督のこだわりは、映画ファンの多くが知るところだ。本作でも、本物の戦闘機「スピットファイア」を飛ばし、現地の砂浜で撮影し、当時の駆逐艦までも海上に浮かべたという。なぜノーラン監督はここまでして“本物”を映そうとするのか?

その答えの1つは、ノーラン監督を構成する“3つの要素”にあった。「僕にひらめきを与えてくれるのは、映画・体験・音楽の3つ。まずは映画の歴史だね。特にサイレント時代の映画の影響を色濃く受けていて、例えばセシル・B・デミルだとか、エリッヒ・フォン・シュトロハイムD・W・グリフィス……そういったサイレント時代の映画は、今作られてる映画とは違う話法で作られているから、勉強になるんだよ。そして、色々な地域を旅するなかで得た体験だ。この『ダンケルク』に関して言うと、実は(妻で)プロデューサーのエマ・トーマスと昔小船に乗って、一緒に(舞台となる)ドーバー海峡を渡っているんだ。その体験でひらめきを得たよ。そのほかだと、音楽に触発されることもあるね」。

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ノーラン監督が口にする“体験”は、これまでの作品群、そして本作を語る上でも外せない要素だ。かつて映画というものは、「見る」ものである以前に「体験する」ものだった。映画の発明者として知られるリュミエール兄弟が「ラ・シオタ駅への列車の到着」を上映したとき、当時の観客は本物の列車が目の前に迫ってくると錯覚して驚いたという。「ダンケルク」も同様に、画面の中には“本物”しかない。そのことが圧倒的な臨場感を呼び起こし、観客はまるで自分が戦場にいるかのような錯覚に陥るのだ。「子どものときから映画を作ってきた」と映画と共に生きてきたというノーラン監督は、映画史の偉人たちが世に与えた“衝撃”を、現代によみがえらそうとしているのではないか? その問いにノーラン監督はゆっくりとうなずき「今の時代は色々な形のエンターテインメントがあるから、ストーリーを消化するにも多種多様な方法がある。そういうなかで、やはり大事なのは、映画にしかないユニークな力を観客に思い出してもらうこと」と述べる。

「映画の醍醐味(だいごみ)とはなんなのか、それはつまり僕に言わせるなら、スペクタクルであり、またその状況に共感し、また集団で感情を揺さぶられる“体験”だと思う。映画がすべてそうである必要はないんだが、そういった作品がたまにやってくると、『ああ、映画にしかないものってこういうことだった』と思い出すんだ。テレビ番組やラジオ劇でも良い作品はもちろんあるが、やはり映画でしか語れない作品というのがあって、そういったものが大事なんだと思うよ」。映画は体験である。この考えが、ノーラン監督を“本物”ヘと駆り立てる情熱の正体ではないだろうか。

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本作では“陸”“海”“空”の3つの視点で物語が進行するが、それぞれの時間軸が巧妙にずらされており、3つの視点すべてで、その場にいる登場人物が“今”体験している事態だけを主観的にとらえるという構成になっている。この演出にも、“体験”を何よりも重視するノーラン監督ならではの考えがあった。「僕は映画を作る上で、どの視点で語るかというのを常に意識している。『ダンケルク』ではあくまでもあの戦場にいた人たちの主観で、どの場面においても彼らの主観で撮りたかった。そして観客には、まるであの現場にいたかのような、そういう実体験をしてもらいたかったんだ。例えば将軍たちが部屋の中で集まって、地図を指差しながらあれこれ説明するようなカットバック的なものは使いたくなかった。観客には、ずっと現場にいてほしかったんだよ。それで3つの視点で語ることにした。観客がそれぞれの視点を見進めていくうちに、最終的にダンケルクではこういうことが行われていたんだ、という大局が消化できるようになることをねらっているんだ」。

この3つの視点で描く構造は、黒澤明監督の「羅生門」に影響を受けているんだとか。「それぞれの登場人物の視点から語られたストーリーを少しずつ見ていくことで、観客が実際はどうだったのかを徐々に想像できるという構造が、とても革命的だった。初めて見たのは大学時代だ。エマと僕は同じ大学の映画研究会に所属していてね、16ミリフィルムの『羅生門』の上映企画を行ったんだよ」。この“体験”がノーラン監督の血肉となり、年月を経て本作にたどり着いたというわけだ。これからもノーラン監督は、あらゆる映画から得た体験を、自身の作品への燃料へと変えていくのだろう。インタビューの端々で映画愛をにじませ、「映画作りは、丹念に丹念に積んでいかないといけない。適当にやってはいけないんだ」と熱く語るノーラン監督の表情は、世界的巨匠でありながら映画少年そのものだった。

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