「【視点】」ダンケルク ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【視点】
歴史は時に客観性を失うことがある。
現代であってもだ。
クリストファー・ノーランは、この映画を壮大な救出劇の成功の物語、つまりカタルシスのような高揚感より、兵士達が追い詰められ逃げ惑い、それを民間人が助ける姿を見つめることによって、戦争の背景に潜む不条理を描こうとしたのではないか。
英仏軍はポーランド侵攻を成功させた独軍を、この時点でも相当過小評価していたのだ。
だから、オランダが占領されてもなお、独軍の電撃的な攻撃に対して後手後手に回るだけで、ダンケルクに追い詰められてしまったのだ。
ダンケルクの救出劇のために、カレーなどでは多くの英兵が命を落としている。
また、英空軍の活躍が、この脱出劇成功の大きな要因のひとつとされているが、捕虜となった英国人パイロットから類推できるように英空軍の被害も相当なものだったとされている。
新聞は、成功物語として報じた。また、この作戦による人的資源の確保は、その後の反撃に非常に重要だったのだと後に評価もされている。
だが、そもそも戦争に見通しの甘さは致命的だし、本当に語り継ぐべきは、なぜ40万人もの兵士が、ここまで追い詰められなくてはならなかったのかという緻密な分析ではないのか。
犠牲者は常に前線の兵士なのだ。
だから、クリストファー・ノーランは、この後世に語られる救出劇の高揚感を最小限にとどめ、名も無き兵士達や、徴用された民間船舶の人々の物語として表そうとしたのではないか。
不時着させた航空機を焼き、捕虜になるパイロットも同じだ。
命を賭して多くの兵士を救ったからといって、必ずしも英雄として祀られるわけではない。
名を残すのは時の政治家や軍の高官だったりする。
チャーチルが40万人の命を救ったのか。
それを疑問視するような発言も散りばめられる。
民間船のキャプテンが、自分たちの始めた戦争に、多くの若者が送り込まれて、それを助けなくてはならないのだと言う。
これが、語り継がれるべき視点ではないのか。
取り返しのつかなくなるまで気が付かないのは、政治の常だ。
先日見たNHKの太平洋戦争のガダルカナルの戦闘の悲劇も、見通しの甘さ、客観性の欠如など、大本営の大失態が要因だった。
そして、兵士は見捨てられた。
多くは怪我、病気による死と餓死だった。
ダンケルクの兵士は見捨てられなかった分、良かったのかもしれない。
しかし、見通しの甘さ、独軍を過小評価してしまったことによって失われた命は計り知れない。
これは、だから、映画の最後のテロップ「ダンケルクの戦いで運命が変わってしまった人々に捧ぐ」に繋がるのだ。