劇場公開日 2017年9月9日

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「観客の期待とノーランの作家性の微妙なズレ」ダンケルク moviebuffさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5観客の期待とノーランの作家性の微妙なズレ

2017年9月27日
PCから投稿

興奮

まず、この映画、間違いなくIMAXの映像体験として素晴らしい。縦と横に巨大に広がるスクリーンに映った海と空、そしてそれと対照的に小さく中央に配置される人々。3DのIMAXですら感じたことのない、画面の中の世界の奥行と広さを感じる事が出来た。

音響もすばらしい。あんなに銃弾の「鉄に当たって砕けている」音にひやひやさせられたのは、初めてかもしれない。

ちなみに、ハンス・ジマ―の半分サウンドトラック、半分音響効果と言ってもいいような緊張感のある音楽は方向性は素晴らしいが、ちょっと画面を過剰に説明しすぎている嫌いがあるかな、と思った(今ここ盛り上がるところ!今ここ感動するとこ!みたいな盛り上げ方・・。)

さて、ここからが本題なのだけども、実はこの作品で少しもったいないなと思った点がある。それは時間を前後させる物語の語り方だ。

彼の出世作、メメント、あるいはインセプション、インターステラー同様、彼がやりたいのは「時間の操作」なんだと思う。映画だけが、時間を編集することが出来るメディアである。多分彼はそれこそが映画という表現の独自性だと考えている作家なんだろう。

で、じゃ果たして今回それが上手くいっているかというと・・。この話、全然普通の時間軸で語っても問題なかったのでは?

ノーランが素晴らしい映画作家であることに疑いはないが、彼の優れている点がその「時間を編集する巧さ」にあるとは実は私はあまり思っていない。

彼の優れている点とはやはり、映像のイメージのパワーだと思う。台詞が少なく映像だけで物語をシンプルに語っているダンケルクは、それだけで、彼の作品が十分に成り立つ事を証明している。だからこそ、この作品に関して言うと、不必要な時間軸の入れ替えは、映画のスケールと不釣り合いな小細工のように感じてしまうのだ。

私としては、ノーランにはダンケルクと同じ方向性で、スピルバーグが扱うような普通の題材、物語を正攻法で撮るような映画にチャレンジしてほしいと思う。(そういう意味で彼が007を撮る事に興味があるというのは納得だ。)

moviebuff