「「考えるな、感じるんだ」」ダンケルク ピラルクさんの映画レビュー(感想・評価)
「考えるな、感じるんだ」
凄惨の果てにおいて護られる秩序と尊厳が眩しく心に残りました。
戦禍のなかの美を透して描かれる人間賛歌ですね。
普通の戦争映画とは違う、と評されている理由はきっとこのあたりかな。
そして、この枠にはまらないスケールの壮大さこそ、
クリストファー・ノーラン監督の持ち味ではないでしょうか。
物語をこしらえたとき、視点がその内側にではなく外側にある感じ。
運命のタクトを振る神の真横で、惨劇を静観させる席につかせる。
残忍でもあり達観もしているその視点は、
不思議と詩的な基底をもっているなと思いました。
セリフが少ない、IMAXがよい、という意見の言わんとすることは、
この映画が、陰影と動静のコントラスト、シークエンスの配置で描く
詩的な映像コラージュだとも言えるからでしょう。
もしもう一度観る機会があるとしたらその時は、
筋立てを追うような意識はあまり持たず、
シーンを感じとれるままに感じとることに努めたいですね。
「考えるな、感じるんだ」みたいなノリで。
そして現地に居合わせずして、
経験しがたきことその何分の一かでも、疑似体験しえたことになれば、
測り知れない値打ちをその映画から享けたことになります。
この映画はそういう方向にもいざなってくれているように思います。
船体にあいた銃痕から光が差し込む。
絶望の淵でのわずかな希望のようにも映るが、それは死と隣り合わせ。
悲しいかな紛争は先に内から起こり、混乱はすぐに誰の手にも負えなくなる。
銃痕から注ぎ込んだ光と水、死とそれに抗う生。
潮に船が運ばれていくように、時間と運命に委ねられて、
一切が転覆し、先刻の希望も絶望も跡形なきものとなった瞬間、
息つく間もなく新たな苦難に見舞われる。
このように、ひたすらに忍耐と幸運が試されるのは、
なにも世界大戦という巨きすぎる人災がこしらえた
とある敗戦地に限った状況ではありませんよね。
過去と未来の瀬戸際で、多かれ少なかれ人はみな、
希望と絶望、時間と運命に翻弄されるがままの
ダンケルクの一員なのですから。