「映画『ザ・コンサルタント』で改めて考えさせられた障害者の才能」ザ・コンサルタント 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
映画『ザ・コンサルタント』で改めて考えさせられた障害者の才能
2ヶ月前に試写会で見て以来、久しぶりに映画『ザ・コンサルタント』を見てきました。改めてみるとこの作品の影のテーマである“定形発達(健常者)と発達障害"に違いはあるのかという問いかけが素晴らしかったので、その点を中心にご紹介することにしました。自閉児や様々な発達障害をお持ちの父兄の方には、大変希望になるストーリーですので、今週金曜日までのロードショーでぜひ鑑賞をお勧めします。
作品自体は、表向きは普通の会計士を装いながら、裏では世界のマフィアやテロリストたちのマネーロンダリングを受けることを生業とし、命を狙われることもしばしばという裏の顔を持つクリスチャンが主人公。軍人だった父親からスパルタ教育で鍛えてきた受けてきた格闘術や射撃を駆使して、ピンチには人を殺して切りぬけることも厭わない殺し屋の一面も持ち合わせていたのです。
そんなクリスチャンが表の仕事で引き受けることになったロボット関連大手企業からの財務調査のオファーでした。調査を進めるうちに彼は重大な不正を発見します。でも、依頼は突然取り下げられ、それ以来クリスチャンに身の危険が降りかかることで、彼の裏の顔が爆発するのです。クリスチャンは、なんでも途中で止められない偏執な性格から、謎の殺し屋からの襲撃をかわしつつ、自分の暗殺と不正を指示した存在に肉薄していくのでした。
不正と戦う現在と闇の会計となった過去の経緯。そしてそんな闇の会計士の正体を暴こうとわずかな手かがりでクリスチャンに肉薄する財務省の女捜査官。その上司の局長は闇の会計士との個人的因縁があるというてんこ盛りの設定。ネタバレしていく後半は、クリスチャンと登場人物との意外な繋がりに、唖然呆然とさせられる展開が続き、けっこう飽きずにラストまで楽しめました。
●この作品の面白いところは、自閉症の天才が主人公というところ
本作を理解するので、ポイントとなる点は、自閉症の天才が主人公というところです。要所で、主人公が重度の自閉症であったことが描かれ、衝動的な動作を繰り返したり、同じ歌詞を何度も口ずさんだり、特徴的なところを描きだしています。
特にジグソーパズルを作るシーンが印象的でした。ウルフ(クリスチャンの本名)は、自閉症ならではの集中力で、凄い速度でパズルを組み上げていくのです。驚くことにジグソーパズルは裏返しで絵柄は一切なく、灰色の面のみで一気にくみ上げていくのです。でも、ラストピースの1枚がないことに気がついたウルフは、見つけられずパニックとなります。ピースはテーブルの下に落ちてしまっていたのでした。自閉症の特徴の一つに、一度やり出したら最後までやらないと気が済まないと言う特性があるようです。これはもう“こだわり"という言葉で片付けられるほど生易しいものではありません。一見、障害のように見えてしまうけれど、見方を変えれば才能なんだと気がつかされる描き方でした。
ちなみに、パズルの裏側に描かれていたのはモハメドアリでした。彼も発達障害で失読症があったと言われています。また劇中にクリスチャンに辿りつく重要なヒントとして、児童小説『不思議の国のアリス』を描いた、イギリスの数学者チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン(ペンネームは、ルイス・キャロル)が詳しく紹介されます。彼も吃音で、自閉症でした。このように過去の自閉症だったと思われる偉人を取上げて、自閉症がいかに天才を生み出すのかをさりげなく主張しているのです。
●ラストシーンで、本作は自閉症について観客にこう語りかける
「(自閉症の)子供たちは劣っているのではない、異なっているだけです。
・・・(中略)・・・
結婚、子供、自己充足。それらは満足に満たされないのかもしれない。しかし確実に言えることは、彼らなも自身が思う以上に能力があるということ。そして多分、その表現方法を知らないだけなのです。あるいは、私達がそれを理解し、教える方法を知らないだけのです。
自閉症が今や68人に1人いる現代。今の精神医学で自閉症者をどう判断できているのだろうか。むしろ健常者よりも彼らのほうが優れているのではないだろうか。そもそも発達障害を判断するテスト方法そのものが間違っているのではないか。」
冒頭述べたように、自分の子供が自閉症だとわかったご両親がこの台詞を聞いただけでも、かなり気が楽になることでしょう。
終始この映画は自閉症がキーになっていた本作。自閉症の特徴を捉えるため、かなり詳しく調べたうえで演出されているところにとても好感が持てました。この作品を通じて、自閉症の子供に能力開発の可能性があることへの啓蒙と自閉症の方の閉じ込められてきた魂の開放に繋がればいいなと思います。
●ちょっとネタバレ(^^ゞ
最後にネタバレになるので詳しくは書けませんが、本作は自閉症のもう一つの特徴である人と会話ができないということろもうまく使っています。ラストシーンでは冒頭で描かれたウルフが育った発達障害支援施設が再び登場。そこで、クリスチャンをサポートする驚異的な才能がネタバレされます。エッと驚くこのこの能力は、きっと見る者の自閉症や精神障害者へのイメージを一変させて必見ですよ!