劇場公開日 2017年1月21日

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「見事な映画だ」ザ・コンサルタント アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5見事な映画だ

2017年1月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

字幕版を鑑賞。まず,予告に嘘が書いてあったのは何故なのだろう?と訝しく思った。原題は “The Accountant” で,「会計士」であって,会計コンサルタントではないし,「本業が殺し屋」というのも事実と異なる。自分や自分の関係者に危険が及んだ時に覚悟を決めて敵を排除しているに過ぎず,その能力や装備が常識外れであるというだけなのであって,人を殺して報酬を得ているわけではないのである。予告に刺激的な言葉を散りばめて集客を図るのはフェアではないと思う。

この映画の主人公には,ある特殊な人物設定が付けてあるのであるが,この設定は実によく機能していたと思う。ベン・アフレックは元々それほど表情豊かな役者ではないし,むしろ無表情を極めるような演技ができたので,きっとやり甲斐があったのではないかと思う。数字や数学者への執着や,きっちりとした仕事の進め方や,一人になった時に Bach のチェロ組曲を聴きたがるところなど,Classic 音楽を聴きながら屋根の雪を四角く切り取って下さなければ気が済まない私には,実に共感できるものがあった。

こうした特殊な我が子に対して,レンジャー並みの戦闘力を授けるべくスパルタ教育を施した軍人の父親というのは,果たして正しかったのだろうかというのが最後まで気になった。例え障害を持っていても,結局は自分で自分を守るしかないという厳しい教えなのだろう。この物語を成立させるために不可欠な要素ではあるが,基本的に他人を信用するなというのは,教育方針としてどうかと思った。ただ,その教育の賜物か,敵は一人残らず容赦なくトドメを刺すという戦いっぷりには痺れた。

脚本は,主人公の特殊な生い立ちや成長過程をフラッシュバックしながら物凄い推進力で進んでいっていた。上映時間は2時間ちょっとなのだが,2時間半を超えているのではと錯覚するほど密度が濃かった。実によくできていたとは思うが,結構あちこちに説明不足もあったような気がする。例えば,主人公は社長の家をどうやって特定したのだろう?ガトリングガンをあんなところに設置したら,撃つ時は自分が完全に無防備になってしまうのだから使い道がないのではないか,など,数え上げれば 10 くらいは挙げられそうである。資金を一旦他社に回してから戻せば株価が上がるという仕組みも良く分からなかった。

役者は主役のアフレック以外にはあまり魅力のある人物がいなかったように思った。軍人の父親と,捜査官のおっさんの印象が被り過ぎていて,ちょっと区別がつきにくかったのは難点だと思った。もっと完全に風貌の違う人を当てて欲しかった。家電メーカーの社長が「クリフハンガー」のテロリストのボスだったので,出てきた瞬間怪し過ぎると思った。

音楽はマーク・アイシャムであった。この人の名前を見たのは「リバー・ランズ・スルー・イット」以来であったが,今や映画音楽の巨匠の一人になっている。流石に見事な音楽を付けていた。監督はあまり名前を聞いたことのない人だったが,実に確かな演出ぶりであったと思う。主人公が一人だけ信用している人間として,電話で的確なアドバイスをくれる女性が出てくるのだが,その正体には心底から感動してしまった。非常に殺伐としたシーンが続く中で,実に爽やかな気持ちで映画館を出てこれたのはひとえにあの女性のお陰であった。
(映像5+脚本5+役者4+音楽4+演出5)×4= 92 点。

アラ古希